議会における懲罰
6月16日から続いていた第2回豊島区議会定例会は、7月14日で閉会となりました。最終日の本会議では、令和3年度一般会計補正予算を含む9本の案件と10本の陳情の採決が行われ、そのほか追加日程で1本の意見書と決議も行われました。が、規則により全ての議題に先立ち行われたのが、「くつざわ亮治議員に対する懲罰動議」です。
まず動議提出者から提出理由の説明があり、懲罰特別委員会を設置してここに付託し審査するかどうかについての採決が行われました。結果は賛成多数で採択となり、懲罰特別委員会が設置されることが決定。記録によると豊島区議会では懲罰特別委員会は1974(昭和49)年に一度開かれただけで、実に47年ぶりのことなのだそうです。
さて一体何に対しての懲罰動議かといえば、今定例会の一般質問(6月23日)の際に、くつざわ議員が本会議場において行った発言についてです。提出された懲罰動議の提案理由書を見ると〈日本共産党に対して「奴隷におとす」「逆らえば殺される」「ひきょう」「卑劣」など多数の無礼な発言をした。よって、地方自治法第135条及び豊島区議会会議規則111条に基づいて、懲罰動議を提出した〉とあります。
ここで「議会における懲罰」に関する法律をまとめてみました。(資料元:豊島区議会事務局)
【法に定められている議会における懲罰】議員が地方自治法(注1)及び会議規則(注2)並びに委員会条例(注3)に違反し、議会の秩序を乱した場合、議会がその規律と品位を保持するために行いうる措置をいう(地方自治法134条)。懲罰の対象となるのは、現在議員として在任している者のみである、と法に定められており、懲罰の動議は、懲罰事犯があった日を含め3日以内に、文書をもって所定の発議者(議員定数の8分の1:豊島区議会の場合は5人以上)が連署して議長に提出しなければならない、とこれも定められている。
- 地方自治法132条「普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」
- 豊島区議会会議規則103条「議員は、議会の品位を重んじなければならない」104条から110条に規律に関する定めあり。
- 豊島区議会委員会条例19条(議事妨害及び離席の禁止)、第20条(秩序保持に関する措置)
この6月23日に行われた一般質問のくつざわ議員の発言通告の表題は、「選挙を健全で公正に〜選挙期間外の名入りタスキ使用による選挙違反について」とありましたが、実際の質問といえるのは「共産党による選挙期間外の名入りタスキ使用についてのご所見は?」の部分のみで、その前後に、「私の考えを述べさせていただきます」とし、彼の日本共産党に対する私見が10分間にわたって述べられました。
当然私も本会議場にて聞いていたわけですが、耐え難いものがありました。「共産党に対する批判」という事ですが、「批判」のレベルを逸脱しており、憎悪表現、いわゆるヘイトスピーチをじっと聞かされている思いで、モラルハラスメントや言葉の暴力とはまさにこのことか、と思ったものです。
私はこれが共産党に対するものでなく、他の政党に対して投げつけられたものであったとしても同様にざわざわする嫌な感情は変わらずあったと思います。 私が現在のコロナ対策や貧困対策に不満を持っている政権与党の自民党に対してのものであったとしても、「言われても仕方ないよね」とは決して思いません。議会に憎悪剥き出しの言葉が投げ込まれたことに対して、同じように怒りを覚えます。
ですから私の認識としては、共産党だけが当事者というよりは、豊島区議会議員全員が当事者であるというスタンスで考えていくべき問題ではないか、と思ったのですが、懲罰動議が出されたのち、幹事長会議での議論の報告も受けましたので、そうではないという考え方の議員、会派の方々もいることがわかりました。
※なお「一般質問」の全文は、通常ですとアーカイブで視聴したり議事録で読んだりすることができるのですが、今回は懲罰動議が出されたためにその時点から該当部分のアーカイブ視聴は止められていましたし、また議事録からの削除を求める動議も新たに最終日に出され、それについても本会議で賛成多数で可決されたため、今後議事録にも残ることはありません。くつざわ議員本人のYouTubeチャンネルでは視聴することが現在も可能だとは思いますが、再生回数を増やすことをおすすめしたいわけでもありませんので、ここでリンクを貼ることはしません。
議会に政局が持ち込まれる
そもそも本会議場で行われる「一般質問」とは、区長や区政の方針や姿勢に対して問い、それを批判し正すためのものであって、くつざわ議員の質問の内容が馴染むものではない、というのは明らかです。にもかかわらずなぜ彼がこんな質問をしたかといえば、それは7月4日に行われた都議選をめぐっての、各政党の政局がらみのはげしい攻防が、本来ならば直接は関係のない議会内に持ち込まれたことに端を発します。
始まりは、5月25日の臨時会の時。6月のコラム「7月の都議選が近づき、ぴりつく議会の空気」でも触れましたが、共産党都議会議員の「名前入りタスキ」を巡って、公明党が議員全員協議会で「公職選挙法違反ではないのか?」と指摘をしましたが、共産党は謝罪をしませんでした。それに対して、6月16日の第2回定例会初日には、公明党より「たすきを付けた予定候補の政治活動」について触れた「コロナ禍において感染防止策に努め、安全・公平・公正な東京都議会議員選挙に取り組む決議」が議員提出決議で出され、採択がされました。
豊島区は都議選の激戦区で、3つの議席に対して現職の都民ファースト、共産党、公明党に前回落選した元職の自民党という、主要4候補が横一線と言われていました。特に今回は、5期目となる男性のベテラン議員の公明党が苦戦を強いられ、「落選かも」と事前の選挙プランナーの分析などでもまことしやかに伝えられており、実際に厳しくもあったのでしょう。繰り返し「名入りタスキ」の問題を取り上げ、女性で若手の共産党現職に対する非常なライバル心というか、「ぴりぴりした感じ」が外野の私たちにも感じられていました。(ある意味その執念のようなものは、今の野党には足りないものであり、「本気で政権交代」するためには学ぶべき姿勢でもあるのではと思うところもあります)。
そんなところに、連日動画を配信して再生回数を稼ぐ、いわば政治YouTuber(ユーチューバー)としても活動しているくつざわ議員が、この話題に「乗った」という形ではないか、と私はみています。もちろん彼がもともと持っている「共産党の思想は受け入れられない」という彼の「信条」もあるのでしょう。
実際に第二定例会での本会議場での彼の一般質問の様子や、その後、休憩動議が共産党から出されたものの、休憩がとられることなく進行し、議場がバタバタした、そういった一連の議会の有様についても、くつざわ議員は恣意的なコメント(悪意のある煽るような表現です)をつけ、自分の動画チャンネルでその日のうちに配信をしています。その再生回数は10万近くに上がっていたわけですから、チャンネル運営者にとっては「収益」もあがり、共産党候補者を落選させたい人にとっては、共産党に悪いイメージを植え付けられる。そんなふうに利害が一致していたと考えるのは自然なことでしょう。
そうした構図も見える中、「“政局を利用したパフォーマンス”にわざわざのる必要はないのでは?」「懲罰動議が可決されたところで、またそれをネタに炎上商法して稼ぐだけだから、そんなものはスルーするのが一番いい」「議会なんだから、いろんな思想信条があっていいし、表現の自由も守られるべきでは」という「大人」な対応をしようよ、といった意見も少なくありませんでした。しかし私は、そういう構図だとわかっていても、今回の憎悪にまみれた言葉の暴力が本会議場という場所で行われたことについては、「区議会全体」としてきちんと対峙するべきとの立場をとってほしい、そう会派の中でも主張をし、懲罰動議には賛成をしました。
懲罰特別委員会で行われること
懲罰特別委員会においては、動議の審査が行われるわけですが、懲罰の種類には、4種類あります(法135条第1項)。
- 「訓告」…公開の議場において懲罰事犯者である者に対し、議長が戒告文を朗読することをいう。なお、文案は、懲罰特別委員会で起草し、本会議で議決したものを朗読することになる。
- 「陳謝」…公開の議場において懲罰事犯者がその事犯について、陳謝文を朗読することをいう。なお、文案は、戒告と同様に、懲罰特別委員会で起草し、本議決で議決したものを朗読することになる。
- 「出席停止」…議会の会期中、一定期間、議会の会議、委員会へ出席を停止する処分のことをいう。なお豊島区議会では規則114条で、出席停止は3日を超えることができないと規定されている。
- 「除名」…当該議員の身分(地位)を剥奪することをいう。除名は懲罰の中でも、最も重いものであるため、「訓告」「陳謝」「出席停止」は過半数議決だが、「除名」は、本会議場において、議員定数の2/3以上が出席をし、その3/4以上の同意が必要な特別多数議決となっている。
今回の懲罰動議に賛成をしたのは、日本共産党区議団(4人)、立憲民主党としま(3人)、無所属の会(4人)、都民ファーストの会豊島区議団・民主の会(7人)で、反対したのが自由民主党豊島区議団(9名)、公明党豊島区議団(7名)、無所属元気の会(1人)となりました。賛成18人、反対17人と拮抗しています。反対した会派も半数近くいますので、委員会が開かれるからといって、懲罰を科すことになるとも限りません。しかしそこで、地方自治法に定められている「無礼の言葉」とは何なのか、「議会の品位」とは何なのか、「秩序保持」とは何なのか、ということについて粛々と冷静に議論をする場が、オープンで設けられることになったことは、大変に良かったと思っています。
そして、懲罰特別委員会の第1回は、7月21日13時半〜と決定しました。この委員会は傍聴が可能です。後日、動画をアーカイブで見ることもできるので、各会派の代表がどのような発言をし議論がなされていくのか、多くの人に注目してもらいたいと考えています。
議会の法と倫理
くつざわ議員の一般質問での発言からここに至るまで、今回の事案については、会派の中でも外でも、議員どうしで様々な意見交換を行いましたが、正確に言うと、彼の発言が問題になるのはこれが初めてではありません。このコラムでも、何度もその発言については取り上げてきており、そのたびに議会は混乱していることについて書いてきました(第1回「否決された豊島区の「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」第5回「議員による差別発言やヘイトスピーチへの対応を求める請願」の可決を巡っておきたこと」)。
これまでの彼の発言とは違い、今回は「共産党」へのヘイト発言です。そのため議員が個人に対して行ったことではなく、議会の中で公党に対して批判をするのは珍しくないことだ、と言われればそうでもあります。しかし私は、「あれらは本会議場の発言として一線を越えてしまっている」と重く受け止めているわけです。一線を越えているかどうかの基準や判断の根拠となる「法」は、この国においては特に定められてはいないので、それが「倫理」ということになるのかもしれませんが。
あの政党は過激だよね、あの議員の意見にはまったく同意できないね、といった私憤のようなものを、控え室や各々のプライベートな場で吐き出すことはあったとしても、公の、それも本会議場という場所で、一般質問の時間を使って醜悪な差別用語(彼自身はこれを「えげつない表現」と言っています)を用いた「演説」を行うというのは、ある意味豊島区議会始まって以来のことでしょう。そこに「一線を越えた」と感じざるを得ないわけです。極端に偏った思想を持ちそれが根底にあると思われる政策提言を行う議員というのは、これまでもいたわけですが、それでも言葉を選んで発言はしてきました。しかしくつざわ議員の場合は、あえて「えげつない言葉」を多用し、語っている相手も、議場にいる区長や理事者、また議員や区民ではなく、彼が配信する動画をみているチャンネル登録者やそれ以外のYouTube利用者だったりするわけです。
私が懸念しているのは、議会の品位や倫理、モラルということもありますが、これを野放しにすることで、他者への憎悪や攻撃や排除といったことへのハードルがどんどん下がっていくことで、人びとのくらしはどうなるのか、社会はどうなるのか、そして世の中の分断がますます進むのでは、ということなのです。
私が議員になった理由は、「憲法の理念である、一人一人が尊重される、自由で平等で平和な社会を実現する」ためです。青臭いかもしれませんが、マガジン9の活動を続けてきたのと同じ理由で、今の場所にもいます。できているか、できていないかはまた別として(努力がまだまだ足りないと言われればそれはその通りでしょう)、その実現に向けて議会に入り、地方自治に参画するための「手段」として、議員という立場に今はいる、という認識です。
考え方や根底にある思想は異なっても、議員というのは「よりよい社会実現のため」の役割を担っている、のです。単に自己実現の場であってはならないということです。
関心が薄かった都議選
都議選を挟んで今定例会期間中には、いわゆる政局をめぐっての熾烈な争い、なりふりかまわず他党を攻撃したりといった、公選法違反ぎりぎりの選挙合戦をあちこちで目にしました。名前入りタスキもしかりですし、商店で物を買っては「●●(候補者名)をよろしく」と言う、候補者名を言いながら大量のビラを配布するなどもかなりグレーな行動です。それほどに当事者たちは必死でやっていました。私も今回は地元で応援したい候補者がいたので、会派ではなく個人として2回マイクを握り、応援もしました。そうして選挙戦の中に入ってしまうと、誰が当選するのか最後までドキドキでわからない白熱の戦いだったのですが、ちょっと冷静に見てみると、まわりにはひんやりとした空気が流れていました。
コロナ対策の遅れを見る限り、都民の怒りがもっと爆発しても良さそうでしたが、そういうこともなく、しらけきっている様子だったのです。もうすっかり政治をあきらめている、もしくは無関心。それはそのまま投票率にもあらわれていました。前回よりマイナス7ポイントの43%。これはかなりショックな数字です。
私の身近にいる人でさえ、都議会選挙の告示直前まで、何の選挙が行われようとしているのか知りませんでした。選挙の話をふっても、大して関心を示すことはありませんでした。コロナで区民も疲弊しきっているのです。私はこんなに危機的な状況においても、政治に参画しようとしない、政治を遠ざけ敬遠する社会の空気に対して、また別の危機感を持ちました。そしてそれは、包摂する社会ではなく分断する社会が、上からも下からも作られようとしている、そのこととつながっているような気もしてならないのです。
ヘイトスピーチを許してはいけない
私が議会の中に入って驚いたことの一つに、「議員」は、議会内の政局や選挙に関しては常にアンテナが立っており、そこには心血を注ぎ込む。また議会内の会派の秩序を乱すことについては、非常に敏感であり、時として過剰に反応をする、ということです。 その一方で、「議員」というある一定の権力や影響力を持つ人間が発する言葉の暴力(憎悪表現、セカンドレイプ的表現など)に関しては、あまりにも感度が鈍いのでは? と感じることが多々ありました。
議論をすること、異論を述べること、批判をすることはもちろん重要であり、民主主義の根幹です。憲法21条「表現の自由」は、それぞれの言論活動が持つ価値というものを、国家権力によって決められたり制限されたりするものではない、ということを保障しています。しかし、その言論が「憎悪表現」となれば別でしょう。日本においては、憎悪表現を取り締まる一般法や特別法は制定されてはいませんが、だからといって放置しておいてよい、というものではありません(刑法によって「特定人物や特定団体に対する」偏見に基づく差別的言動は、侮辱罪や名誉毀損罪の対象になります)。
国会議員の例を見ても、差別や憎悪に満ちた言葉の暴力が公の場で発せられることは、この十数年の間に、あまり珍しくないことになってきています。しかしそういったことが、政治への嫌悪感や無関心を、さらに広げることになっているのではないか、という懸念がずっと私にはあります。コロナ禍という未曾有の出来事が起きているにもかかわらず、政治に無関心で、選挙に行かない人がますます増えていることからもそう思います。この危機的な状況に対しては、議会の内側にいる議員は党派は関係なく、それぞれが自覚をして向き合っていかなければならないのではないでしょうか。「本会議場に持ち込まれた言葉の暴力」を、議会の中にいる人間が軽く考えてしまうことは、社会の「政治への無関心の空気」を助長させることになりはしないか、とも思うのです。
今回の懲罰特別委員会においては、「政局」とは離れて議論すべきと考えます。そうでないとまた、議会内の勢力争いを単にしているだけで、ますます一般の有権者はしらけてしまうでしょう。
懲罰特別委員会には、私の所属する無所属の会からは幹事長のわがい議員が委員として出席します。各会派の各議員がこの問題について、どのような考え方や向き合い方をしているのか、私もしっかりと注目をしていきます。この問題、引き続き、考えていきます。