第173回:議員文通費の根深い問題(南部義典)

28年間「月額100万円」の文通費

 昨日(21日)閉会した第207回国会(臨時会)では「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」(歳費法)第9条第1項に基づく文書通信交通滞在費(文通費)の見直しが焦点となりました。法改正に至らなかったことは周知のとおりですが、この間、月額100万円という金額もさることながら、一日でも在職していれば一カ月分が満額支給される制度になっている点に、「お手盛りが過ぎる」「市民感覚とかけ離れ過ぎている」という厳しい批判が集中しました。

 この文通費ですが、1993年4月1日の歳費法改正により、「文書通信交通費」から「文書通信交通滞在費」へと名称が変わり、金額が月「75万円」から「100万円」へと増額されました。

 歳費法の改正案を起草したのは衆議院議院運営委員会(与謝野馨委員長)で、実務的に各党間の意見調整を担っていたのは与党筆頭理事の谷垣禎一議員(自民)です。増額の根拠を知ろうと当時の会議録を調べてみたのですが、改正案の審議では、議運委で谷垣議員が改正の趣旨を淡々と述べているだけで、詳細は不明です。ただ、当時の政治状勢として、衆議院ではまだ中選挙区制が敷かれていたことは無視できません。「選挙には大金を要する」という大義名分の下、政治献金を巡る事件が度重なっており、国民の政治不信がまん延する中で、合法的に十分な活動費を得る必要があると、各党の思惑が自然と一致していたのではないかと推察しています。25万円をプラスするのに「滞在」という名目が尤もらしく足されたのでしょう。現在まで29年近く、「月額100万円」が維持されていることになります。

 ちなみに、1991年4月1日の歳費法改正では、永年在職議員特別交通費(25年以上議員として在職し、各議院から表彰を受けた議員に支給される特別な交通費。現在は廃止)が月額「25万円」から「30万円」へと引き上げられています。改正案を起草したのは同じく衆議院議院運営委員会(森喜朗委員長)でした。振り返れば、当時の国会は「お手盛り」の連続(特にベテラン議員にはより多額の手許金が渡るよう腐心していた)でした。

使途公開と返納が制度改正の肝

 
 さて、この臨時会では12月7日、立憲民主党が文通費の①日割計算化、②使途公開、③未支出分の返納の3点を網羅する内容の歳費法改正案を衆議院に提出しました。野党側でも取り組み意欲の濃淡こそあるものの、日本維新の会、国民民主党、共産党のいずれも立憲案に賛成する意向を公に示していたことから、この立憲案が議院運営委員会で1分たりとも審議されなかったのは大変残念なことです。もし、公開で審議していれば、採決に至らなくても、各党会派の考え方を会議録に残すことはできたからです。

 自民党は、①日割計算化を先行処理し、②使途公開、③未支出分の返納に関しては越年して各党協議を続けると頑なに主張したため、結局、各党間の折り合いがつかない最大の原因を作ったと言わざるを得ません。改めて指摘しなければならないのは、①の日割化は、衆議院の解散が行われた月、総選挙の期日を含む月(任期が始まる月)、参議院議員の任期が始まる月と終わる月にしか問題とならず、痛くも痒くもないという点です。各党間でなお意見の違いは残っているものの、②使途公開、③未支出分の返納こそ制度改正の肝であることを忘れてはなりません。

 もっとも、この臨時会で歳費法改正による文通費見直しが実現しなかった点について、ニュース等で見る限りでは、「国民の期待に応えられず、申し訳ない」と、残念そうな顔つきをしている議員はあまりいません。与野党問わず、使途自由な文通費にメスが入ることを内心では快く思っていない議員が少なからずいるのは事実です。実は、この点が根深い問題だと思います。28年間も慣れてきた制度、運用である上、使途の公開についても、使い方そのものが議員、政党(会派)間で異なる(個性が出る)以上、それを比較され、晒されることを嫌う(警戒する)心理も自然と働いているようです。それゆえ、「議員の身分、国会の運営に関する事項は、全会一致が原則だ」と易々と逃げ口実を与え、議論のボールがどこに投げられているのかさえ分からない状態を作ってしまうのです。

 いずれにせよ、先の立憲案を超える内容の法案は当面出てこないので、1カ月後に召集される常会で褌を締め直さなければなりません。国民はこの問題を決して見逃しません。

河井夫妻買収事件を受けての歳費法改正も手つかず

 最近は忘れ去られがちですが、議員が逮捕、起訴された場合などの歳費、期末手当等の支給停止、返納を制度化するための歳費法改正も課題として残っています。河井案里・克行議員夫妻による買収事件に端を発しているもので、制度改正の方向性については当連載第167回でも触れています。本来であれば、法的、政治的なけじめとして、衆議院が解散される前に終えておくべき法改正でした。このまま手つかずで越年させてしまおうとする態度には、心底怒りを憶えます。

 来年7月には参議院議員の通常選挙が行われます。これらの歳費法改正問題に対する姿勢も、投票の判断材料となるのではないでしょうか。常会が召集されたら、与野党で早速協議を始めてもらいましょう。

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南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解 超早わかり18歳成人と法律』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。ポータルサイトhttps://nambu2116.officialblog.jp/ (2021年10月現在)