第196回:「濃厚接触」ってエロくない?(笑)(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

オミクロンの猛威

 オミクロン株が猛威を奮っている。東京も大阪も、感染者1万人超えが続いている。ぼくの周辺でも、とうとう陽性者や濃厚接触者が出始めた。ぼく自身も、のどに痛みを覚え、しばらくトローチやのど飴なんかを舐めていたが、なんとか3日ほどで痛みはとれた。もしこれで熱も出ていたら、PCR検査を受けなきゃと思っていたが、ありがたいことに発熱はなかった。だから、なんとかオミクロンではないと、自分に言い聞かせている。カミさんはわりと元気だから、お互い感染はなかったようだ。
 そんな中、大阪で維新は「コロナ対策」そっちのけで、「菅直人対策」に力を入れている様子。アホかお前ら、と言いたくなる。

 オミクロン株の猛威に関して、政府も専門家と称される人たちも、まるで有効な対策を打ち出せない。第5波までの経験は、いったい何だったのか。
 昨年暮れにやや感染者が減ってきたからといって、「コロナはこれでおしまい」と高をくくっていたのなら、政治家失格、専門家という名称は返上しなさい。すでにオミクロン株の蔓延はヨーロッパを始め、世界各国から報告されていた。年末年始の休暇を控え、日本にだってその恐れがあることは十分に分かっていたはず。
 現に、米軍基地のある沖縄や山口(岩国)などでは、すでにその兆候が表れていたではないか。

米軍さまは例外です…

 「日米地位協定」という国辱的な取り決めで、米兵はパスポートも要らず、入国の際の検疫もパスしてやって来る。そしてマスクもしないで基地を出て、バーや居酒屋に通う。これで感染が拡大しないわけがない。だって、毎日数十万人の感染者が出ていたアメリカからやって来るのだから、感染者がいて当たり前だろう。
 それでも日本政府はアメリカにおそるおそる外出自粛をお願いするだけで、強い態度には出られなかった。だから「植民地政府」だなどと言われるのだ。この態度こそが、腰抜け岸田文雄首相のほんとうの姿である。
 日本政府の弱腰を鼻で笑うように、米軍は外出制限を1月いっぱいで終了したという。朝日新聞(1月29日付)の記事だ。

在日米軍 外出制限 月内で終了

 在日米軍施設や周辺で新型コロナウイルスの大規模な感染が相次いだことに伴い、在日米軍が実施していた軍関係者の外出制限について、外務省は28日、米軍から31日で終了すると連絡があった、と発表した。
 沖縄県などの在日米軍施設や周辺で感染者が急増したことから、在日米軍は10日から2週間、外出制限を実施。さら1週間延長していた。制限では、在日米軍関係者の外出について、午後10時から午前6時まで禁止。軍施設・区域外への外出は、公務や通院、通学など「必要不可欠活動のみ」に限っていた。
 在日米軍は引き続き、基地が所在する自治体が講じている措置に従うという。
 外出制限の終了について、外務省は「日米協議の下、感染症の状況を継続的に監視した結果と受け止めている」としている。(略)

 むろん、沖縄県民も玉城デニー知事も猛反発。しかし日本政府は、沖縄県民よりもアメリカさま(米軍)の決定に従うだけ。
 外務省の見解には、米軍への忖度が恥ずかしいほど見えている。まん延防止等重点措置からさらに厳しい緊急事態宣言へ移ろうとしている日本の状況の中で「日米協議の下に米兵の外出制限を終了」させるということを、一方的な米軍からの「連絡」で了承してしまうという日本政府。
 米軍基地からオミクロン株が一気に漏れ出たということを、外務省(政府)は認めようとしないのか。言われるままに「はい、終了ね」でおしまいかよ!
 日本では「緊急事態宣言」も視野に入って来ているというのに、米軍は外出制限すら解除してしまった。屈辱、これを植民地支配と言わずして何と言う?

えーいっ、持ってけドロボー!

 PCR検査は旧態依然で、まともに検査すら受けられない。
 ここにきて、抗原検査の検査キットさえ不足が露わになっている。なぜ、この数カ月の間に、せめて検査キットの増産態勢と感染者の収容先くらいの手当てをしておかなかったのか、それがぼくには不思議でならない。
 もっと凄いのは「検査なしでもコロナ診断をしてもいい」という通達。検査キット不足から、苦し紛れに言いだしたのだろうが、冗談もここまでくれば地獄だ。検査なしで診断だと? 医師は「神の目」でも持っているというのか。患者を一目見て「あ、感染していますね」か。
 さすがに、あまりの批判に「検査なしの診断」は取り消したけれど、政府も専門家会議もメチャクチャだ。これが日本国の政治なんだ。

 第3回目のワクチン接種だって、遅れに遅れている。しかも接種期日が、2回目の8カ月後⇒7カ月後⇒6カ月後…と、まるで露店の叩き売り。
 それに輪をかけてひどいのが、濃厚接触者の待機期間についての右往左往だ。当初は確か14日間の隔離だったはずだ。それが10日間に短縮され、さらにそれを7日間にした。そして今度は、介護や保育などの社会機能維持に必要とされる人(エッセンシャルワーカー)は5日目で解除する方針だという。
 もはやテキヤのお兄さんも呆れる投げ売り状態。
 「2週間だ、いや10日間にまけちまうぜっ、それでもダメか、じゃあ7日間でどーだっ! 何をっ! もっとかよ、え~い持ってけドロボー! 5日間だ、これ以上は逆さに振っても鼻血も出ねえぞっ!」
 こんなデタラメでも政治だというのなら、小学校の児童会のほうがよっぽどましだ。

おかしな言葉が定着していく

◎濃厚接触
 この言葉を最初に聞いたとき、ぼくは一瞬、ミョーな気分になったのを憶えている。濃厚接触? なんだか性的なイメージを抱いてしまったのはぼくだけじゃなかったはず。友人は「これ、エロいよなあ」と酒を飲みながら笑っていた。
 次々に、妙な言葉が生み出される。

◎ソーシャル・ディスタンス
 日本語にすれば社会的距離。当初は、社会的差別意識の問題、みたいな気がしたのだ。

◎ウィズコロナ
 コロナといっしょに遊びましょって感じですか。まるでロンパールーム(古いっ!)ですよね、それじゃ。

◎ステイホーム
 なんだか飼い犬みたいに「お座り、待て」と命令されてるようで、イヤな感じだった。「家にいましょ」じゃダメなのかな、小池サン。

◎人流
 なんだこれ? かつて1960年代中国の、農村から都会への凄まじい人の流れを「盲流」と言ったと思うけれど、それがふっと思い出された。日本語として、どうにもこなれていない違和感だ。

◎人数制限
 「人流」を否定して、尾身会長は「大声を出さず少人数ならば、店での飲食もかまわない。ステイホームは必要ない」と踏み込んでしまった。もうどーにでもなれ、という捨て身戦法でしょうか。

◎自宅療養
 事ここに至っては、「自宅療養」なんて、単なる「自宅放置」か「診療放棄」というしかない。保健所は電話してもつながらないし、救急車が来てくれても受け入れ先の病院探しに延々時間がかかって病状悪化、というケースも多発。しかも、コロナ対応で一般の病人の手術などはどんどん後回しになるという、まさに「医療崩壊」。
 後になって、実は「自宅での感染死者数は21年8月には250人を超えていた(警察庁21年9月発表)」などと言われたって、死者は生き返らない。

◎まん延防止等重点措置
 これほど妙な言葉も珍しい。しかもあの田崎スシロー氏のように「まんぼう」と略し、さらには「上りまんぼう」だの「下りまんぼう」だのと連発して顰蹙を買うおバカさんまで出現。さすがにふざけてんのかお前、と批判殺到で使用中止になったらしい。

 言葉を言い換えたり、新しい言葉を作ったり、さらには訳の分からない横文字でごまかすという日本の政治家たちのやり方は、実際の政策などではなく「言葉の弄び」でしかない。それにコロリと騙されるコロリ感染。
 しかし「政治の貧困」をここまで明らかにしてくれたのは、新型コロナウイルスの思いがけぬ怪我の功名と言っていいのかもしれない。
 悲しいけれど……ね。

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