第8回:北朝鮮とトランプ氏に振り回された1年、安倍政権は北朝鮮に支えられた?(柴田鉄治)

 今年の漢字に「北」が選ばれた。「北」1字で北朝鮮を指すというのは、いささか無理な感もあるが、1字しか選べないのだからやむを得ない。確かに、北朝鮮は核実験やミサイルの発射を繰り返し、日本だけでなく、世界中に緊張感をもたらした。
 「世界中を振り回した」というなら、北朝鮮と対峙した米国のトランプ大統領も挙げねばならない。就任からちょうど1年。北朝鮮と罵声を浴びせ合って「戦争の危機」を煽っただけでなく、年末には、「エルサレムに大使館を」と宣言して、中東に新たな危機を生み出した。来年は、中東に火の手が上がるかもしれない。

日本は「忖度」と「北朝鮮のおかげ」で、安倍一強政治が続く

 一方、日本に目を転じれば、今年の流行語大賞「忖度」がまかり通って、安倍政権の「独裁ぶり」がますます強まった1年だった。
 「忖度」なんて当用漢字にもない、普段は使われない言葉が流行語大賞に選ばれたのは、いうまでもなく森友学園・加計学園問題からである。安倍首相夫人が名誉校長を務めていた森友学園に国有地を8億円も値引きして払い下げたのも、安倍首相の腹心の友が理事長を務める加計学園に獣医学部の新設を認めたのも、官僚たちが安倍首相の意向を「忖度」してやった、新しいタイプの政治疑惑である。
 これまで政治疑惑と言えば、政治家にカネを贈って無理なことをやってもらう、というタイプだったが、安倍首相の場合は、人事権を使って、つまり「出世をエサに」役人に無理なことをやらせたというものだ。
 安倍首相は「自分や妻が少しでもかかわっていれば、首相も議員も辞める」と公言したのに、夫人がかかわっていたことが分かっても、「総理のご意向」という文書が文科省から出てきても、知らんぷりでやめる気配もない。
 森友学園問題では払い下げを受けたほうの籠池夫妻が詐欺罪で逮捕され、長期拘留や接見禁止が続いているのに、国有地を不当な廉価で払い下げた背任容疑の官僚たちは、逮捕どころか、逆に出世しているのだから、日本は捜査機関まで首相の意向を「忖度」する国になってしまったようだ。
 さらに付言すれば、国会も与党が多数を頼んで、安倍夫人や加計理事長の国会喚問を拒否し、「国会議員の4分の1以上が要求すれば国会を開かねばならない」という憲法の規定まで無視して国会を開かなかった。
 こんな状況に国民も厳しい批判の目を向け、7月の都議選では自民党が惨敗、安倍政権の支持率も急落した。ところが、それを救ったのが、またまた北朝鮮だった。北朝鮮が核実験やミサイルを打ち上げるたびに、安倍政権の支持率が回復するのだから不思議である。
 それをいいことに、9月15日に北朝鮮が日本を飛び越えて太平洋に落ちるミサイルを打ち上げたとき、安倍政権は「Jアラート」を発し、列車を止めたり、小学生に避難訓練までさせたりして危機感を煽った。さらに、安倍首相は、9月末の臨時国会を冒頭解散して総選挙に持ち込み、「国難突破選挙」と名付ける厚かましさで、結果も大勝した。
 この総選挙の結果も、麻生副総理がいみじくも喝破したように「北朝鮮のおかげ」である。国民は北朝鮮の脅威に対応するのに政権交代など、政治的な混乱があってはよくないと考えた結果だろう。もちろん、小池百合子・前原誠司両氏の大失敗という野党側の乱れも大きかったが…。安倍首相は、なんと強運な政治家なのだろうか。

核・ミサイル開発の背後に貧しい国民たちの姿が

 北朝鮮といえば、日本の日本海側の沿岸に、北朝鮮の小さな木造の漁船が次々と流れ着いたのも、今年のニュースである。なかには乗っていた漁民全員が白骨死体になっていたものまであったし、日本の無人島に上陸して嵐を避け、ついでに無人の小屋から電気製品やドアの取っ手まで盗み出していた漁船もあった。
 つまり北朝鮮の権力者は、核兵器やミサイルの開発に一生懸命だが、そのかげで国民の生活は貧しく、厳しいノルマを課された漁民たちは、嵐のなかを小さな漁船で無理やり出漁せざるをえない状況なのだ。
 そこで提案だが、流れ着いた漁民たちを北朝鮮に送還する前に、日本の社会をじっくり見学させたらどうか。というのは、テレビ朝日「ワイドスクランブル」の橋本大二郎キャスターが韓国に飛び、大韓航空機爆破事件の犯人、金賢姫(キム・ヨンヒ)氏と会見した番組を見たが、そのなかで金賢姫氏の興味深い発言があったからだ。
 金氏は、爆破事件の犯人として逮捕され、韓国に連行されたとき、厳しい取り調べを覚悟したが、韓国当局は逆に、金氏に韓国社会をじっくり見せたのだという。その結果、金氏は北朝鮮で学んだことがすべてウソだったと知り、すべてを自供したというのである。
 そこで思うのだが、漂流漁民だけでなく、北朝鮮の優秀な学生たちを大勢招待して、自由に日本社会を見せたらどうか。「そんなカネなら出そう」という金持ちは日本にいないものか。もちろん北朝鮮政府に拒否されるかもしれないが、国外に労働者を大勢派遣している国だから、案外、乗ってくるかもしれない。いずれにせよ、それで緊張緩和に少しでも役立てば、安いものだろう。

「核兵器禁止条約」に日本はなぜ反対するのか?

 今年のニュースとしてもう一つ、核兵器禁止条約が国連で122か国が賛成して採択されたことと、その制定に協力した国際NGO「ICAN」がノーベル平和賞を受賞したことがある。
 このニュースの重大さを考えると、私なら「今年の漢字」に、第4位だった「核」を選びたいように思う。この欄でもたびたび書いてきたように、世界で唯一の被爆国、日本がなぜ核禁条約に反対するのか、とあらためて指摘したい。
 ノーベル平和賞の授賞式で、長崎原爆の被爆者サーロー節子さんが述べたように、「核兵器は必要悪ではなく、絶対悪なのだ」。日本政府が核禁条約に反対するのは、米国の「核の傘」に守ってもらっていることと、核所有国が賛成しなければ、核兵器の廃絶は実現しないことを理由に挙げている。
 それなら逆に日本政府に問いたい。核兵器を抑止力と考える限り、核所有国が核兵器を手放すはずがないではないか、と。所有国が手放さないだけでなく、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮と核所有国は増える一方で、これからも増え続けるに違いない。
 やはり、核兵器の廃絶を実現するためには、非所有国で核禁条約を発効させ、所有国に加盟を迫っていくほかあるまい。
 日本は核兵器を抑止力と見るのではなく、あくまでヒロシマ・ナガサキの原点に立って、核兵器は人類と共存できない「絶対悪」と見るべきである。日本が核禁条約に加盟しても、原爆を落とした米国が怒るはずはない、と私は思うのだが、どうだろうか。
 前にも記したことがあるが、対人地雷禁止条約は、賛成国50か国だけで制定し、日本は加盟しなかったが、当時外務大臣だった小渕恵三氏が外務省や防衛庁を説得して署名、翌年の首相就任後に批准した。日本に「第二の小渕氏」は、いないのか。
 日本は米国の属国ではないのだから、何でも米国の言う通りにする必要はあるまい。

米国のエルサレム政策を批判する国連決議に日本は賛成票を投じた!

 何でも米国の言う通りにする日本が、珍しく米国を批判する側に回ったケースが年末にあった。米国がエルサレムに大使館を移す計画を非難する決議に、128か国とともに賛成票を投じたのである。米国が、賛成する国には援助しないと恫喝したのにも屈しなかったのはとくによかった。米国も、恫喝で従わせようとするなんて落ちたものである。
 日本は世界の大勢に従って、中東の平和を大事にしたわけだが、中東には早くも不穏な空気が漂い、死者まで出ている。日本が米国を非難する側に回ったのは、正しい選択だったといえよう。
 この選択に自信をもって核禁条約にも思い切って加盟したらどうか。来年の課題として、期待を持って見守りたい。
 来年の課題といえば、安倍首相が強くこだわっている憲法の改定問題がある。憲法9条の1項と2項をそのまま残し、3項で自衛隊の存在を明記したいという安倍首相案と、9条の2項を残したのでは論理矛盾が解消しないと、2項を削除する案とがあり、自民党内の議論は年内には決着せず、両論併記となった。
 憲法の改定問題は最終的には国民投票があるが、野党がどう出るか、当分は国会内での議論を見守りたい。メディアは二極分化しているが、社論とは別に、国会論議をしっかりと報じてもらいたい。

今月のシバテツ事件簿
リニア新幹線の談合摘発、この際、建設自体をやめるべき

 東京―大阪を1時間半で結ぶ「夢の超特急」リニア新幹線の工事を巡って、大林組と鹿島建設、清水建設、大成建設の4社による談合に東京地検特捜部の捜査のメスが入った。大林組からの自主申告がきっかけらしいが、どこまで発展するか、当分、目が離せない。
 リニア新幹線計画は、JR東海が総工費9兆円を全額持つということで始まったのに、すでに国費からの投入が密かに始まっているといわれ、JR東海の葛西・名誉会長と安倍首相が親しい仲だけに、森友・加計学園問題に次ぐ第三の事件に発展するという噂まで飛び交っている。
 折から山陽新幹線で「のぞみ34号」が台車に亀裂が入ったまま突っ走るという「あわや大事故か」という「重大インシデント」が発生した。新幹線では初めての「重大インシデント」だという。
 日本の新幹線は、これまで大事故もなく、世界でも評判がよく、日本からの技術導入を考えている国も少なくない。しかし、これまで大事故がなかったのは、技術面の優秀さもさることながら、幸運に恵まれた部分も少なくないのだといわれている。
 とくに地震国、日本では地震による大事故が心配されている。阪神大震災は早朝の運行前で、東日本大震災では緊急停車が間に合った。関係者が最も心配しているのは、トンネル内を走行中に大地震に遭うことだ。東海道新幹線には丹那トンネルという長いトンネルがあり、東海大地震の危険地域内にもあるだけに一層、心配だ。
 ところが、リニア新幹線は、全路線の9割がトンネルなのだ。それも地下40メートル以下という深いところが大半だ。各所に地上までの救出坑を設けるというが、そんなことで乗客の救出ができるのか。
 いまでもおよそ2時間半で着く東京―大阪間を、1時間半に短縮できるからといって、こんなに危険なリニアに乗る人がいるのだろうか。私なら、生きている間に完成したとしても「絶対に乗らない」と断言できる。
 私が現役の科学記者のころ、超電導の技術が飛躍的に発展し、将来、「夢の超特急」が実現するかもしれないと、新技術への期待に胸を膨らませたときもあった。しかし、実現に近づくにしたがって夢がしぼみ、マイナス面が強く出てくることは、珍しいことではない。原子力だってそうだった。
 いま各地で建設反対運動が起こっているが、どうもメディアの報じ方は手ぬるいようだ。「新しい技術開発に反対するのか」と言われたくないという気持ちは分かるが、それでは「第二の原発」になってしまう。科学ジャーナリストにとって、いまが正念場なのである。談合事件の追及も大事だが、「建設自体をやめるべきだ」としっかり報じるべきときだ。

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。