第9回:米朝対決、南北対話の年明け――日本は蚊帳の外?(柴田鉄治)

 2018年の年明けは、北朝鮮の金正恩委員長の「核のボタンは私の机の上にある」という声明に、トランプ米大統領が「私も核のボタンを持っているが、彼のよりはるかに強力だ」と応酬したことで始まった。核兵器をもてあそんでいるような、地球の運命は二人の権力者の指先にかかっているかのような、奇妙な年明けであった。
 人類とは共存できない核兵器は、この地球上からなんとか廃絶したい。それには、核兵器を安全保障上の抑止力と考えてはだめで、持ちたい国が増える一方になってしまう。ヒロシマ・ナガサキの原点に立ち戻ることだ。
 昨年、国連で122か国が賛成して核兵器禁止条約が採択されたのに、世界で唯一の被爆国、日本が反対して参加しないなんて、おかしいと思わないのだろうか。その核禁条約の制定に寄与したとしてノーベル平和賞に輝いた国際NPО「ICAN」の事務局長が年明けに来日し、安倍首相に面会を申し入れたが、安倍首相は会おうともしなかった。
 核兵器の廃絶は、日本国民の総意なのだから、せめて日本のメディアくらい「核禁条約に加盟せよ」と政府に迫ってほしいものだが、なかなかそうはならない。

南北会談、平昌五輪は「朝鮮半島旗」掲げて合同行進

 一方、北朝鮮が韓国の平昌で開かれる冬季オリンピックに参加してもいいと表明したことで、南北会談が一気に進展した。開会式では朝鮮半島の旗を掲げて合同で入場行進を行うことや、アイスホッケーの女子チームは南北合同チームをつくることまで決まった。
 北朝鮮の視察団が韓国入りし、韓国の視察団も北朝鮮入りして、互いに歓迎し合った。北朝鮮からは大応援団が韓国入りする予定で、管弦楽団の演奏会まで企画されている。一方、北朝鮮ご自慢の馬息嶺スキー場で両国選手の合同練習も企画され、南北の協調ムードが一気に高まった感がある。
 さすがに平和の祭典と言われるオリンピックの効力は甚大で、国際オリンピック委員会(IOC)も積極的に支援し、世界各国も南北協調ムードを歓迎している。
 そんななかで「北朝鮮には対話でなく圧力を」と圧力一辺倒を主張してきた日本政府は、浮かぬ顔だ。もちろん対話と言ってもオリンピックに限られた話で、核兵器やミサイルの開発をやめると言ったわけではないのだが、日本ではメディアまで政府に同調してか、歓迎一色とはならず、戸惑いぎみの抑えた報道ぶりになっている。

慰安婦めぐる「日韓合意」に新たな軋轢、その影響も

 そのかげには、日韓関係に新たな軋轢が生じて、ギクシャクしているということがある。従軍慰安婦問題をめぐって日韓両国政府の間で2015年12月にまとまった「日韓合意」に対して、新たに大統領に就任した文在寅氏が「あれでは解決にならない」と異議を申し立てたことだ。
 最初は「日韓で再交渉を」と主張していた文在寅氏も、日本政府の激しい反発に再交渉は引っ込め、「おカネはいいから、元慰安婦の人たちに直接、謝ってほしい」と主張も変えた。それに対しても日本政府の反発は収まらず、安倍首相が平昌オリンピックへの開会式にも出席しないことまで検討された。
 さすがに「東京オリンピックを控えた日本がそんなことをしたら大変だ」という声が自民党内から強く上がり、結局、安倍首相も出席して文在寅大統領と首脳会談を開くことに落ち着いた。米国からも日米韓の結束のためにも出席するよう「圧力」もあったという。
 安倍首相が平昌オリンピックの開会式に出席するというニュースは、「出席するな」と主張していた産経新聞に対する単独インタビューのなかで明らかにされ、産経新聞のスクープの形になった。
 安倍首相としては、安倍政権支持の産経新聞に花を持たせることによって、産経新聞と同じく「出席するな」と言っていた多くの右翼系の支持者たちに理解を求めたものと推察できる。
 昨年5月の憲法記念日に、読売新聞の単独インタビューで「安倍・改憲試案」を発表したのと同じような方式である。安倍首相の「メディア支配の巧みさ」を物語るものだといえよう。
 安倍首相は産経新聞のインタビューのなかで「日韓合意は国と国との約束であり、政権が代わってもその責任は受け継いでいかなければならない」と述べ、そのことを首脳会談で文在寅大統領に直接言うために行くのだ、という趣旨を繰り返し述べている。産経新聞もその理由に理解を示したようだ。
 TPPやパリ協定など国と国との約束を平気で破っている人にトランプ大統領がいる。安倍首相はトランプ氏にも同じことを言っているのであろうか。

日韓合意をめぐる軋轢、東京新聞の「本音のコラム」が名解説

 安倍首相が開会式に出席することになったのはいいのだが、日韓合意をめぐる両国政府の軋轢とは、そもそも何なのか。この問題に対する日本のメディアの報じ方は、ほとんど政府寄りで、文在寅政権を批判するものが多く、よく分からなかった。
 産経新聞のスクープ・インタビューが載った日と同じ1月24日の東京新聞特報面『本音のコラム』欄に、文芸評論家の斎藤美奈子氏が「J社とK社の対立」という巧みな比喩を用いて書いた名解説を読んで、なるほどと思った。
 斎藤氏は「ただ謝罪してほしいというだけの韓国の要求を、日本政府はなぜそこまで強く拒否するのか。こちらはどこまでも加害者だ」「約束が違うといって怒るなんて、盗っ人たけだけしい」とズバリと書いているのだ。
 問題は日韓合意の「最終的かつ不可逆的な解決」という言葉にある。日本政府はこの言葉を「二度と謝らない」という意味にとって、文在寅氏の主張に怒っているようだが、加害者が「二度と謝らない」といえば、被害者が怒るのも当然だろう。
 文在寅大統領も政権に就く前は、合意の破棄まで視野に入れていたが、政権についてからは「再交渉は求めない」と態度を変えた。その点では、政権に就くまでの安倍氏が、慰安婦問題を謝罪した「河野官房長官談話」を撤回したいと言っていたのを、政権についてからは「継承する」と変わったことと、いわば奇妙な『相似形』のような形になっているのだ。こんなことで日韓関係がうまくいかないなんてどうかしているといえよう。

国会開幕、「もり・かけ・スパ・リニア」の追及どこまで?

 通常国会が開幕した。今度の国会は持ち越しの「もり・かけ」に、新たな「スパコン疑惑」「リニア疑惑」が加わり、追及する野党にとっても、受けて立つ政府・与党にとっても、まさに正念場となろう。
 この「もり・かけ・スパ・リニア」の4疑惑に共通するのは、権力者に近い人たちが官僚に『忖度』を迫るという新しいタイプの政治疑惑だということである。従来の政治汚職は、不公正なことをやってもらうために政治家にカネを贈るというものだったのに対して、今度の疑惑はカネではなく、官僚の人事権、いわゆる『出世』を餌に不公正なことをやってもらうというタイプなので、カネの動きがないだけに見えにくい。
 たとえば森友学園疑惑では、首相夫人が名誉校長を務める学校の用地に国有財産を8億円も値引きした疑惑に、「不正はない」「交渉記録もない」と平然と答弁していた財務官僚が国税庁長官に出世した、というケースはその典型だろう。
 しかも、払い下げを受けた側の籠池夫妻が詐欺罪で大阪地検特捜部に逮捕され、長期拘留が続いているのに、財務省の背任容疑は放置され、「巨悪」を追及すべき特捜部まで「忖度」しているのか、といわれている。
 その点では、新たな疑惑、スーパーコンピュータ疑惑やリニア新幹線疑惑は、東京地検特捜部が摘発に動き出したものだけに、期待も大きい半面、どこまでやるか疑問視する人も少なくない。
 いずれにせよ、国会の野党も、捜査当局も、そしてなによりもメディアの追及が欠かせない。「もり・かけ疑惑」ではNHKの大失態と朝日新聞の健闘が目立ったが、これからはすべてのメディアが追及に全力を挙げてもらいたい。「ジャーナリズムの使命は権力の監視にある」のだから。

今月のシバテツ事件簿
地震に関する2つの『迷信』を打ち砕いた阪神大震災

 1995年1月17日早朝、マグニチュード7.3の直下型大地震が阪神・淡路地方を襲ったとき、私はまだ在職中で、その日、大阪本社での会議があって東京から向かっていた午前11時ごろ大阪本社に着くと、すでに大混乱の最中だった。
 大学で地球物理学を専攻し、地震には特に関心の高い私は、災害の最もひどい阪神地方を歩いて見て回った。神社の石灯籠の火袋が数メートルも飛んでいたり、高速道路が横倒しになっていたり、高層住宅の途中階が押しつぶされていたりしている姿を見て、本当に驚いた。
 大地震だったとはいえ、地震国日本で、あの程度の地震で高速道路が横倒しになるとは手抜き工事があったに違いない、と思った。そして手抜き工事をもたらした原因として『地震に関する2つの迷信』を思い浮かべた。
 2つの迷信とは、そのころ「次の大地震は東海地震だ」というのと「関東地方と違って関西地方には地震が少ない」というものだ。大阪本社から東京本社に転勤してきた記者たちから「東京は地震があるからいやだなあ」という言葉をしばしば聞いていた。
 関西地方に地震が少ないという『迷信』は、南海地震や鳥取地震が戦中・戦後の混乱期だったため印象が薄く、その後50年近く大地震がなかったところから生まれたものだが、地球の活動で50年なんていう長さは一瞬のことだといっても過言ではない。
 もう一つの「次の大地震は東海地震だ」という『迷信』は、地震には直下型と海溝型と二種類あって、海溝型には150年~200年くらいの周期があるところから、安政大地震から120年余も起きていない東海地震が「あす起こってもおかしくない」という学者の警告に乗って政治家が「大規模地震対策特別措置法(大震法)を制定したことで生まれたものだ。
 大震法によって「次は東海地震で、しかも予知ができる」という『迷信』まで広がってしまった。私は大震法は間違いだ、「地震予知できると思うな」という記事を何度か朝日新聞に載せたのだが、効果はなかった。
 「関西に地震は少ない」という迷信は、阪神大震災で吹っ飛んだが、「次は東海地震で予知できる」という迷信は、2011年の東日本大震災まで続き、大震法の改定は昨年までなされなかった。社会に広がった迷信はなかなか根強く、消え去るまでには時間がかかるものだと痛感した。

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。