第11回:「財務省が公文書を改ざん」と朝日新聞がスクープ――国会・国民を欺いた罪をどうする?(柴田鉄治)

 3月2日の朝日新聞は、1面のトップで「財務省が森友事件の文書を書き換えていた」とスクープ記事を放った。国有地を8億円も値下げして払い下げた森友事件に対して、財務省は昨年来「交渉記録は廃棄した」「文書はない」と国会答弁を続けていたのを突然、態度を変え「文書があった」と国会に提出したのだが、その文書は書き換えられたものだったと報じたのである。
 このスクープは、私の推測では、財務省内かあるいは政府内の正義感の強い人が朝日新聞に内部告発したのではないか、と思われる。もし、そうだとしたら、メディアへの信頼感が薄れたと言われるなかで、まだメディアへの期待感が残っていたことを示す事例として、朝日新聞以外のメディア関係者にとっても嬉しいニュースだといえようか。
 このニュースを受けて直ちに国会での追及が始まったが、麻生財務相は「捜査中の事件にかかわるもので答弁を控えたい」と、またまたはぐらかそうとした。しかし、今度はそれでは済まず、「国会の調査権はどうなるのだ」との声が与党内からも上がって、財務省は8日、文書を発表した。

佐川国税庁長官が突然、引責辞任、事実上の更迭、懲戒処分も

 ところが、発表された文書は、前と同じものだったのだから驚く。その代りというか、佐川宣寿・国税庁長官が突然、引責辞任した。そして、辞任に追い打ちをかけるように、財務省は佐川氏を減給20%3か月の懲戒処分にした。つまり、辞任といっても事実上の更迭であり、書き換えられた文書も12日に公表すると、発表したのである。
 佐川氏と言えば、森友事件が起こってから理財局長として国会答弁に立ち、「交渉記録は破棄した。文書はない」などと答弁していた当事者で、「虚偽答弁だ」という批判が広がるなか、逆に「論功行賞」だったのか国税庁長官に昇進して世間をアッと言わせた。
 安倍首相も麻生財務相も、佐川氏の国税庁長官人事に「適材適所だ」と強弁していたが、佐川氏自身は就任の記者会見まで拒否して、逃げ回っていたのである。
 また、近畿財務局の職員が自宅で自殺しているのが見つかり、文書の書き換えに悩んでいたという遺書があったと報じられている。ついに死者まで出たということで、ますます深刻な政界疑惑事件の様相を呈してきたといえよう。
 こうした状況を受けて財務省は12日、14件の公文書を改ざんしていた事実を示す文書を国会に提出した。安倍昭恵夫人の「いい土地ですから前へ進めてください」という言葉や、鴻池祥肇氏や平沼赳夫氏の秘書から連絡があったことなど政治家の名前も削られていたことが分かった。
 公文書の改ざんは犯罪行為であり、佐川氏の引責辞任だけで済む話ではない。麻生財務相の責任はもちろんのこと、安倍首相の責任も当然、問われよう。とくに、安倍首相は昨年2月、「私や妻が(森友学園の問題に)関わっていたら首相も議員も辞める」と宣言していただけに、その去就がひときわ注目される。
 安倍首相のこの宣言は、税務省の改ざんが明るみに出た現時点で改めて見直してみると、「私や妻が関わっていることを示す証拠があったら、すべて消し去るように」と、官僚たちに「忖度」を迫ったものだと言えないこともなかろう。
 安倍首相も麻生財務相も「財務省の官僚に公文書の改ざんを指示したことはない」と強調しているが、指示ではなく、誰にでも分かるような言葉で「はっきり宣言して」忖度を迫ったものと考えると、分かりやすい。
 佐川理財局長の「文書は廃棄した」という国会答弁が、安倍首相の「関与していたら首相も議員も辞める宣言」の出た直後になされたことも、そのことを示しているのかもしれない。
 それにしても、財務省が公文書を改ざんしたことを認めているのに、財務省の最高責任者である麻生財務相が「責任はすべて佐川氏にある」と部下に押しつけて、責任を取ろうとしないことには驚く。
 麻生氏は「佐川氏が国会答弁に合うように勝手にやったことだ」と記者会見で語っているが、いかに財務省の局長であっても、大臣や次官、官房長らに黙ってそんなことが一人でできるのだろうか。もし、佐川氏に責任をすべて押しつけて幕引きを図ろうというのなら、それこそ「トカゲのシッポ切り」になってしまう。
 いずれにせよ、財務省の公文書改ざんによって『愚弄された被害者』は国会であり、国民である。国会もメディアも、佐川氏や昭恵夫人らを証人喚問して、真相の解明に全力を挙げるだけでなく、安倍首相や麻生財務相の責任追及も途中であきらめたりしないように望みたい。

「巨悪は眠らせない」はずの地検特捜部はどうした?

 もう一つ、この事件は大阪地検特捜部が背任の容疑で捜査を続けており、1年も経つのに、どうなっているのか、という問題がある。
 地検特捜部の役割は「巨悪を眠らせないことだ」と言ったのは、確か伊藤栄樹元検事総長だったと思うが、森友事件は、国有財産を8億円も値引きして払い下げた「巨悪」背任事件である。
 前にも記したように、これまでの政界汚職事件は、政治家にカネを贈って不正なことをやってもらうというものだったが、森友事件はちょっと違う。国有地を格安の価格で払下げを受けようと考えた籠池前理事長側は、安倍昭恵夫人にカネを贈って頼んだのではなく、名誉校長になってもらうだけで「神風が吹いた」というのである。いわゆる「忖度」が働いたわけだ。
 これまでの政界汚職なら『贈賄側』にあたる籠池理事長夫妻は、詐欺罪で逮捕され、半年間も面会禁止が続いているのに、『巨悪の側』の背任事件のほうは、いっこうに動きがないのはどうしたことか。
 背任の動機が「官僚の忖度」なら、起訴状にそう書けばいいのである。そうすれば、安倍政権が内閣人事局を創って高級官僚の人事権を握り、「官僚に忖度を迫って」不正をやらせるという新しいタイプの政界汚職事件を社会にアッピールできるからだ。
 財務省が値引きの理由にした地下のゴミについて、撤去費の算出に関わった業者が、大阪地検特捜部の任意聴取に「森友学園と財務省からの働きかけがあってゴミの量を過大に報告した」と話したという新しい事実も報じられている。
 背任事件の捜査に動きがないため、「地検特捜部まで忖度しているのか」という声が出始めている。「巨悪を眠らせない」という本来の役割をしっかりとやって、早く結果を出してもらいたい。
 その点がまだ途中段階ではあるが、財務省の文書改ざんが明らかになったことで、すべてのメディアが一致して糾弾する側に回ったという事実は、大きな成果だといえよう。これまで森友・加計学園問題に消極的な姿勢を示していた読売、産経新聞も13日の社説で「国民への重大な裏切りだ」と厳しく論難し、NHKのニュース番組や民放のワイドショーなども政府や財務省に厳しい姿勢で報じている。
 読売新聞の改ざん発表前の9~11日の世論調査でも、産経新聞とフジ(FNN)による10~11日の世論調査でも、内閣支持率が6ポイントも落ちてそれぞれ50%を切り、読売調査では「政府が適切に対応していない」という意見が80%、産経調査では「麻生財務相は辞任すべきだ」が71%に達している。
 改ざん発表後の朝日、毎日、共同通信、NNNの世論調査では、内閣支持率の低下はそれぞれ10ポイント以上に達し、支持と不支持は大きく逆転した。朝日新聞の調査では、文書改ざんの責任は安倍首相にあるという意見が82%に達した。
 「ジャーナリズムの使命は権力の監視にある」という言葉が、久しぶりに甦ってきたようで、日本のメディアにとっても明るい未来を予感させるものがある。

5月に米朝首脳会談へ、北朝鮮問題はどうなる?

 2月の平昌オリンピックで南北会談が実現し、北朝鮮の首脳が韓国入りしたことで融和ムードが広がったが、3月に入って、韓国の特使から北朝鮮の金正恩委員長のメッセージを受け取ったトランプ米大統領が、「5月に米朝首脳会談をやろう」と応じたことで、融和ムードが一層広がった。
 慌てたのは「対話でなく圧力を」と、圧力一辺倒だった安倍首相だ。すぐトランプ大統領に電話して「その前に渡米するから日米首脳会談を」と申し入れて、了承を得た。「北朝鮮に騙されるな」と言うために行くのだろうが、財務省の改ざん事件でそれどころではなくなるかもしれない。
 一方、米朝首脳会談は、どこで行われるのか、まだ決まっていないが、トランプ氏が期待する「トランプ氏の別荘で」というのは、暗殺を恐れる金正恩氏が断るのではないか。恐らくトランプ氏が北朝鮮に行くか、あるいは板門店で会うことになりそうだが、いずれにせよ成功裏に終わることを期待したい。
 そう思っていたところ、米朝首脳会談の準備にあたるべきティラーソン国務長官のクビが飛んだ。トランプ大統領が、外遊中のティラーソン氏にツィッターで解任を通告したというのだから、ひどい話だ。しかも、後任は超タカ派のCIA長官だというのだから、ますます心配になる。
 世界中がトランプ氏に振り回される状況は、まだしばらく続きそうだが、見守るほかあるまい。ただ一点、日本としては戦争だけは起こしてくれるな、と祈るばかりである。
 一方英国では、ロシアにスパイとして拘束され、スパイ交換で英国に亡命していた人物が特殊な化学兵器で殺されそうになった事件が起き、ロシアが関与しているとして、ロシアの外交官23人を国外追放した。ロシアも対抗処置を取り、英露の関係が一気に悪化した。
 そんななかでロシアのプーチン大統領が圧倒的な支持を集めて再選され、一段と独裁体制を強めた。中国の習近平主席も独裁体制を強めており、北朝鮮はもちろんのこと、米国もトランプ氏の独裁色が強まっている。
 戦争は権力者が起こすものであり、独裁的な権力が増えるほど、戦争の危機は増すことになる。米朝関係の融和にホッとしたのもつかの間、当分、国際情勢から目が離せそうにない。

今月のシバテツ事件簿
3月10日の東京大空襲から73年、3・11の東日本大震災から7年

 3月10日の東京大空襲は、米国の戦争犯罪といってよく、罪のない10万人の市民が死んだ。その東京大空襲でわが家も焼けた。わが家には父親ひとりが住み、私たち家族は都心から離れたところに疎開していたため無事で、あの夜、東京の空が真っ赤に染まったのをはるかに眺めていた。翌日、父親がよれよれの姿で家族のもとに現われ、無事な姿に喜んだ。
 翌々日、私は父親と一緒にわが家の焼け跡を見に行った。わずか50坪くらいの敷地にぎっしりと敷き詰めたかのように100発近い焼夷弾の殻が転がっていたのを見て、父親がよく助かったものだと、あらためて幸運を喜んだ。
 こうした子どもの頃の戦争体験が、科学者になりたいと思っていた夢を捨てて私に新聞記者への道を選ばせたのである。「あの戦争を止められなかったのは日本のジャーナリズムが死んでいたからだ」と学んだからだった。
 幸い、私が新聞記者をやっている間に直接的な戦争はなく、日本は平和だった。しかし、定年退社後、湾岸戦争、イラク戦争と米国の戦争に日本も参戦するように要請され、安倍政権の安保法制でその危険がいっそう高まった。
 3・11は戦争ではないが、福島原発事故で日本は壊滅の危機に直面した。福島事故の原因は、津波や全電源喪失への対策を何もしていなかった政府と東電にあるが、それをチェックしていなかったメディアの責任も重大だと私は思っている。
 工場で火事があっても刑事責任が問われるのに、あれだけの事故を起こしたのに誰一人責任が問われていない。とくに、最大の責任者、原子力安全・保安院(現在は廃止)の責任は放置されたままだ。また、福島事故まで起こしながら、原発を再稼働させ、原発輸出を推進し、エネルギー政策を変えようともしない政府に、メディアはもっと厳しい姿勢を示すべきではないか。

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。