第15回:金銭の授受がなくても贈収賄は成立する――「もり・かけ疑惑」は「汚職」、その贈賄側は?(柴田鉄治)

 「息子を合格させてもらう見返りに、大学に便宜を図った」として、文科省の現職局長が収賄容疑で逮捕された。このニュースを見ていて、改めて考えたのが、森友・加計の「もり・かけ疑惑」のことだ。
 安倍首相は昨年2月、森友学園の問題に関して「私や妻がかかわっていたら総理も議員も辞める」と断言した。それなのに、財務省の公文書改ざんなどで関わっていたことが明らかになると、「関与とは、金銭の授受があったかどうかだ」と条件を変えて平然としている。「ゴールポストを勝手に動かして逃げ回っている。こんな卑怯な政治家は見たことがない」と法政大学教授の杉田敦氏が雑誌『マスコミ市民』の7月号で語っている。
 安倍首相は、これまでにも「加計学園が獣医学部の新設に応募していたことは昨年の1月まで知らなかった」と平気でウソをついてきた。そのため「総理のご意向」「首相案件」といった言葉を含む文書が出てきても、秘書官らは「記憶にない」の大合唱、加計学園の事務局長は「私がウソをつきました」と自供までさせられたのである。
 したがって、条件の変更など何とも思っていないのかもしれないが、そこに現れたのが今回の文科省局長の収賄容疑に関する「金銭の授受がなくても贈収賄は成立する」という地検特捜部の発表だ。
 文部官僚が息子の合格のために便宜を図ることと、財務官僚が首相夫人のために国有地を超格安で払い下げたり、首相の腹心の友の経営する学園に獣医学部の新設を「特別扱い」で認めたりすることと、どこが違うのか。
 「息子の合格のため」と「自分の出世のため」と、どちらが罪が重いのかはともかく、財務官僚らの収賄容疑は成り立つだろう。「息子を合格させる」贈賄側は、大学の理事長や学長で、今回は高齢のため逮捕は避けたようだが、訴追は避けられまい。
 そうなると「もり・かけ疑惑」は「もり・かけ汚職だ」といったほうがいいのかもしれない。財務官僚らが自分の出世を「収賄」して首相の近親者に「便宜を図った」のだから。そうだとしたら、贈賄側は「出世させた」安倍首相や麻生財務相ということになろうか。
 そう考えていくと、地検特捜部が、犯罪行為は明白だったのに、佐川理財局長(その後、国税庁長官に昇進)らを全員不起訴としたのは、贈賄側の訴追を避けるためだったのかもしれない。そう考えると分かりやすいが、ともかく「もり・かけ疑惑」は明らかに政官界汚職なのだ。
 もちろん、文科省汚職を摘発するな、というのではない。検事総長がかつて特捜部の使命として「政官界汚職など、巨悪は眠らせない」ことだと言った、その本来の使命をしっかりと果たしてもらいたい、と願うだけだ。

西日本に集中豪雨、甚大な被害、そのさなか自民党は「大宴会」

 今月上旬、西日本を襲った集中豪雨の被害は、死者200人以上、行方不明者も多数という大災害に発展した。最近の異常気象の多さにも驚くが、日本は災害国家だとつくづく感じさせる大災害である。
 日本の安全保障は、軍事力の強化ではなく、災害対策の強化である、とあらためて思わされる。ところが、日本政府には、その心構えがない。いや、「ない」といっては言い過ぎだが、「足りない」ことは間違いない。
 今回の災害の際にも、日本政府の心構えがいかに足りないかを示す事例があった。気象庁は4日に大雨警報を出し、5日には特別警戒警報を発していたというのに、その5日の夜、自民党は赤坂の衆議院議員宿舎で「赤坂自民亭」と称する大宴会を開き、安倍首相をはじめ、小野寺防衛相、上川法相、岸田政調会長、竹下総務会長らが出席して、大いに盛り上がったという。
 赤坂自民亭の宴会にはめったに出席しない安倍首相が、この日わざわざ出席したのは9月の自民党総裁選での3選を目指してのことだといわれ、「安倍チルドレン」と呼ばれている議員らも大勢、参加したようだ。
 さすがに自民党内でも反省すべきだとの声があがり、竹下総務会長は9日の記者会見で「どのような非難もお受けする。これだけの災害になるという予想は私自身持っていなかった」と釈明した。また、赤坂自民亭には出席しなかった森山国会対策委員長も「大災害が予想されるときには、できるだけそのようなことは慎んだ方がいい」と苦言を呈した。 政府の非常災害対策本部の設置が8日に遅れたことにも「検証がなされるべきだ」という声があがった。
 ただ、安倍首相には反省の声はなく、11日から予定していた外遊の中止をようやく9日に決めただけである。災害大国、日本の最高責任者として、緊張感が足りないと言ったら言い過ぎであろうか。

タイの洞くつで13少年を救助、各国のダイバーが協力して

 今月の明るいニュースとしては、タイの洞くつに閉じ込められた13人の少年が、酸素が欠乏して間一髪のところで全員が救助された事件があった。大雨が降ってトンネルが水でふさがり、各国のダイバーが救助に駆け付け、少年を一人ずつ水の中をくぐらせて救出したのである。
 このところ、国際ニュースと言えば血なまぐさいニュースが多い。トランプ大統領がイスラエルの駐米大使館をエルサレムに移転させるという暴挙に、パレスチナ側が怒って激しいデモを展開、それに対抗してイスラエル軍が出撃して多くの市民が殺害された事件などもその一つだ。
 国際紛争が起これば、罪のない市民が殺されることに世界中が何とも思わなくなっていることは、おかしくないか。そもそも「戦争」とは、なんの恨みもない人間同士が平気で殺し合う現象だ。
 世界中から戦争をなくし、人間同士、互いに助け合う時代が来ないものか。タイの洞くつの少年たちの救済劇のニュースを見ながら、そんな夢のような世界の到来を期待してしまった。

今月のシバテツ事件簿
オウム真理教の麻原教祖ら7死刑囚を処刑

 7月6日、オウム真理教の教祖、麻原彰晃こと松本智津夫ら7人の死刑囚が一斉に処刑された。確定判決によると、松本死刑囚は1989年11月、幹部らに指示して坂本堤弁護士一家3人を殺害。94年6月には松本市でサリンを散布させて住民7人を、さらに95年3月には東京の地下鉄車内にサリンを散布させて12人を殺害した。
 なぜ一斉に7人を処刑したか、法務省は理由を明確にはしていないが、来年5月に改元を控え、「平成を象徴する事件は平成が終わる前に決着をつけよう」という強い意志があったようだ。
 オウム真理教事件は、平成を代表する不気味な大事件だが、メディアにとっても、警察にとっても「後味の悪い」事件である。まず、坂本弁護士一家殺害事件に関しては、TBSテレビが坂本弁護士のインタビュー内容をオウム真理教一派に洩らし、殺害事件に発展したわけで、TBS「NEWS23」の筑紫キャスターが放送のなかで「TBSは死んだ!」と叫んだことで知られる。
 また松本サリン事件では、警察が事件とは無関係のK氏を容疑者として追跡してしまったため、捜査が間違った方向に行ってしまった。
 さらに、もう一つ、95年元旦の読売新聞の1面トップに「山梨県上区一色村でサリンを検出した」という大スクープが載ったのに、どこの社も追わず、当の読売新聞も追跡取材をしなかったため、3月の地下鉄サリン事件まで、同村にオウム真理教のサリン工場があったことを突き止められなかったのだ。
 95年1月17日に阪神大震災が起こったという不幸なめぐり合わせがあったとはいえ、なんとも言えない「後味の悪い」事件である。

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。