外資系法律事務所弁護士からビジネス・パーソン、そしてインハウスカウンセル 講師:木原 和香恵 氏

 今年で弁護士歴17年となる木原和香恵先生は、外資系法律事務所へ入所後、転職や2度の学生生活を経て、現在はニューヨークの銀行にて企業内弁護士(インハウスカウンセル)として法律とビジネスの両面から専門性の高い案件を取り扱っていらっしゃいます。
 今回の講演では、弁護士でありながらビジネス・パーソンとして着実にキャリアを積んで来られた木原先生に、キャリアアップの方法や心得を教えていただくとともに、高い専門性をもってグローバルに働くことの醍醐味についてお話しいただきました。

ビジネスローヤーになるための最初の一歩

 弁護士1、2年生のときは、質の高いトレーニングを受けて順調に日々を過ごす事が大切です。自分は何がしたいのか、何を勉強したいのかを考え、事前にしっかりと情報収集を行ったうえで事務所選びをしてください。
 グローバルな視点でビジネスに近いところで働きたいのなら、就職先として外資系の法律事務所という選択肢もいいでしょう。一般の国内の法律事務所では、主に日本法に基づいて法的アドバイスを行うのに対し、外資系の法律事務所では、案件に応じて各国の法律を適用しながらグローバルに法律ビジネスを展開しています。ただ英語が共通語なので、英語が嫌いな方にはお勧めしません。クライアントサイドの担当者とは日本語でやりとりをしていても、その方の海外にいる上司に報告するためのメールは英語で、なんていうご依頼を受けるこことは日常茶飯事です。とはいえ英語は最初から出来なくてもトレーニング次第で出来るようになりますので、英語が好きで興味があればチャレンジしてみる価値は十分にあると思います。
 ビジネスローヤーとしての第一歩は、ビジネスを理解することです。専門用語を知らないでその業界に入ると、まずクライアントが話している内容が分かりません。当然私も初めは分からないことだらけでしたので、知らない言葉をノートに取って調べていくことから始めました。もし現時点で既に専門分野をもっている方がいれば、それだけで一つの大きなメリットです。
 良いビジネスローヤーになるには、どういうときに「法的紛争(もめごと)」が起こるのかを想像できなくてはいけません。日ごろ、弁護士はクライアントの利益のために契約書を作成しますが、契約書というのはビジネスがうまくいっているときには誰も読み返したりしないものです。例えば、ビジネスで損害が発生した際に契約上どちら側に責任があるのかを判断する場合や、やむを得ず契約を解除したいときに何か制限がないか確認する場合などに、「十数年前に契約したときには、どのようなルールを定めていたか」と契約書を読み返します。そのときにクライアントの役に立たないような条文をつくる弁護士では、客はつきません。
 ジュニア弁護士にはよく翻訳の仕事がまわってきますが、例えば契約書を翻訳するときに「なぜこの条項があるのか。この条項によってクライアントにどういうメリット、デメリットがあるのか?」など考えるクセをつけておくと、法的紛争(もめごと)についての想像力を鍛えることが出来ます。翻訳でなくとも、初めのうちは様々な書面のひな型を使うと思いますので、一つひとつの条文を丁寧に見て行くことは、非常に良いトレーニングになるでしょう。

留学、転職そしてキャリア・チェンジ

 弁護士4年目くらいになると次のステップを考え始めます。自分がどういう風なキャリアを積んで行きたいのかを考えて、多方面からしっかりと情報収集を行ってください。
 ビジネスローヤーになる人は、ほぼみなさん留学します。私が留学した13年前は、ほとんどの人がアメリカにLL.M.(法学修士号)を取りに行っていましたが、いまはイギリスやオーストラリアなど留学先の選択肢も多様です。ロースクールだけでなく、ビジネススクールに行く人もいます。アメリカのLL.Mと一括りで話されることが一般的ですが、ロースクールによってプログラムが違うので、事前に情報収集をしてぜひ専門性を高めるようなキャリアアップをしましょう。
 学位を取ったら次は研修です。私は外資系事務所に勤務していたので、上司に頼んで東京からニューヨークへ転籍させてもらいました。担当分野も不動産からプロジェクト・ファイナンスへ変更してもらったので、専門用語が分からず、また勉強、勉強の日々でした。
 私は法律家でありながらビジネスとより近い場所で仕事がしたいと思っていました。クライアントが何を求めているのか、ビジネスマンとして何を思っているのかを知りたいという思いが次第に強くなり、2008年、まさに清水の舞台から飛び降りる気持ちで8年務めた事務所を退所し、不動産投資・ファイナンスを学ぶためビジネススクールに入りました。
 私がビジネススクールに入った頃というのは、ちょうどアメリカでサブプライムローンが問題になりリーマンブラザーズが倒産したという時期でした。せっかく不動産投資を専攻したのに、2009~2011年にアメリカの不動産ビジネスは低調で、私の中の「オプションA」は完全に潰れてしまいました。
 しかしどんなときも「オプションAがなければ、Bで行こう。Bが無理ならばCで」といった強靭な精神力が必要です。幸運にも、太陽光発電を行っている日本の会社がドイツにある子会社で資産運用をするという話があり、駐在員としてドイツに行くチャンスを得ました。
 ここからの教訓として、キャリア形成には、ある特定の分野の専門性も大切ですが自己投資やリスクの分散も重要です。時代背景を見ながら情報収集をして自分のキャリアアップを進めることをおすすめします。

なぜ弁護士からCEOになる人が多いのか

 法律とビジネスの両方が分かると、弁護士として非常に有益です。例えば、ビジネスを経験していると「誰にどこから収益があるか」というのを真っ先に考えます。収益がある場所は損害が発生したときに請求が立てられる場所ですので、利益の取り損ねがないように、法律・ビジネスの両側面から質の高いアドバイスができます。
 いま、私は企業内弁護士をしていますが、企業内弁護士は弁護士資格を有しながら従業員として企業に在籍するので、法律事務所で勤務していたときに比べ、非常に情報に近いです。法律家の主たる役割は、法を解釈して事実に適用することですが、事実が正しくなければどうしようもありません。その点、外部の弁護士に比べ企業内弁護士はより正確に詳細な情報を集めやすいため、事実を認定しやすいです。むしろ、クライアントである同僚や重役などから嫌われないようにしながら情報を得なければならないので、自ずとマネジメントの要素が大きくなります。さらに、グレーの事実を白ととらえ「ビジネスを続けましょう」と言うのか、黒ととらえ「リスクが高いのでやめましょう」と言うのか、法的アドバイスの判断に経営の要素も入って来ます。
 このように多角的にビジネスを見ることが出来るため、弁護士からCEOになる人が多いのでしょう。

日本、アメリカ、ヨーロッパで働いてみて

 外資系法律事務所の東京オフィスで働いているときには、外国法の弁護士が大きい案件を見ていて、下請けのような形で自分に日本法が適用される部分のみ仕事がまわってくることが多く、全体が見えないということがありました。他方、ニューヨークのオフィスに転籍すると、アメリカは州によって法律が異なるので、クライアントである金融機関の本社があるニューヨークの法律が案件全体の準拠法で、その案件の一部の準拠法が他の州法という場合が多く、かかる一部を各州のローカルの法律を担当している弁護士事務所へ下請けに出す立場になりました。またドイツでも、国を超えてEUの枠組みでビジネスを展開するため、一つの案件に複数の法令が適用されることが一般的でした。
 ヨーロッパでは、例えば「投資先はベルリンで、買いたい人はアイルランドにいて、会社はイタリアにある」といった規模でビジネスが行なわれます。そこで、弁護士は、税法や規制法専門の弁護士と相談しながら「ファンドをどこにつくるか」「資産の場所は」など細かく事案を分析し、より効率的なストラクチャーをつくることが要求されます。また、簡単にクライアントに会いに行くことができないので、毎日英語で電話会議をしていました。常にフレキシブルに対応する必要があり、ダイナミックさという点で、「きっちり」仕事をすることを良しとする日本の法律事務所とは大きな違いがあるように感じます。

法曹を目指されているみなさんへ

 さて、駆け足で話してきましたが、振り返ってみると、興味を持った分野に挑戦しながら成り行きで生きてきたら気付けば17年経っていた、という印象です。法曹を目指しているみなさんが、今から合格後のことを考えることができるならば、きっと明るい未来を手に入れることが出来るでしょう。夢をかなえるための手段として短期の目標を立てながら、仮にオプションAがだめならBでいこうといった柔軟な思考と、運命を受け止められるような精神力をもって頑張ってください。

木原 和香恵 氏(弁護士、某ニューヨーク銀行アジア担当インハウスカウンセル、元伊藤塾塾生)
2000年、司法研修所修了。2001~2008年、オリック・へリントン・アンド・サトクリフ法律事務所にてアソシエイトとして勤務(東京・NY・2004~2005年ペンシルベニア大学ロースクール)。2008~2010年ニューヨーク大学大学院不動産投資・ファイナンス専攻 。2010~2013年、ドイツにて在イタリアおよびチェコの太陽光発電所の投資ポートフォリオマネジメント。2013~2015年、ニューヨーク商業不動産の開発ファイナンス。2015年~現在、ニューヨークの銀行の企業内弁護士(現在東京勤務)。