【今こそ読みたい 厳選!マガ9アーカイブス】田中優さんインタビュー:戦争に向かう金の流れを変えよう(2007年7月11日公開記事)

田中優さんインタビュー:戦争に向かう金の流れを変えよう

2005年3月にスタートした「マガジン9」。たくさんの人に支えられ、こつこつ週1回の更新を続けているうちに、今年でなんと15周年を迎えました。
この15年間、コラムやインタビュー、対談などの記事を通じて、本当にさまざまな方たちのお話をうかがうことができました。その蓄積をただ眠らせておくのはもったいない! というわけで、過去の「マガジン9」掲載記事の中から、スタッフが厳選した「今だからこそ読みたい」コンテンツを再掲していきます。掲載当時とは状況などが変わっているところもありますが、今の状況との共通点に気づかされたり、新たな視点が見えてきたりすることも。未読の方も再読の方も、改めて、ぜひ読んでみてください。
※記事の内容、プロフィールなどは公開当時のものです。このシリーズは不定期で更新していきます。

 6月7日、メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループが、企業に対する投融資指針を改定し、核兵器の製造への融資を禁止すると明記したという記事が出ていました。昨年1月には、りそなホールディングスが、核兵器を開発、製造する企業や、児童労働・強制労働への関与が認められる企業、環境に重大な負荷を与えるおそれのある開発プロジェクトなどへの融資を行わないという方針を文書で公表しています。
 また少し前には、みずほ、三菱UFJ、三井住友の各フィナンシャルグループ(FG)が、CO2を多く排出する石炭火力の新設事業への融資停止を発表しています。世界的にはそれでも大きく後れを取っているという指摘はあるものの、多くの人々が声をあげ、企業に対応を迫ってきた結果の表れでしょう。こうした動きがさらに広がっていくことへの願いを込めて、「お金の動き」を変えることの重要性を語っていただいた、「AP bank」の立ち上げ人・田中優さんへのインタビュー(2007年)をご紹介します。ふだん何気なく使っている「お金」が海の向こうの戦争や地球全体の環境と直結しているというお話、環境を守ろうとするなら当然戦争にも反対すべきだというお話はとても新鮮で、インタビュー後、自分のささやかな預金をメガバンクではなく労働金庫に移したりしたのを覚えています。
 最近、この「コロナ危機」にあって、社会のあり方そのものの転換の必要性についてうかがう機会が重なりました(たとえば「ポスト・コロナに向けたパラダイム転換」を訴える政治学者の中島岳志さんのお話 、「コロナ危機が、新しい社会への転換を迫っている」と語る岸本聡子さんのお話など)。こうした「お金の動き」の転換も、社会全体を変えていくときに絶対に必要なことのはず。改めて、じっくり考えてみたいと思っています。

2007年7月11日UP
田中優さんインタビュー:
戦争に向かう金の流れを変えよう

私たちの貯金が、イラクの人々の頭上にミサイルを降らせた

──2003年、音楽家の坂本龍一さんや櫻井和寿さん、音楽プロデューサーの小林武史さんの出資によって設立された「ap bank」が話題を呼びました。自然エネルギーの導入や省エネプロジェクトなど、環境保護に寄与する取り組み・事業に低金利で融資を行う非営利の「NPOバンク」ですね。
 田中さんは、このapバンクに監事として参加されているほか、1994年に日本のNPOバンクの先駆けとして誕生した「未来バンク」の理事も務められていますが、こうしたNPOバンク——非営利バンクとも呼ばれますが——の誕生の背景や意義についてまずお聞かせください。

田中 まず考えなくてはいけないのは、我々がよかれと思ってやっている一般の銀行預金、あるいは郵便貯金が、何に使われているのかということです。
 かつて、日本がアジア太平洋戦争をやったとき、その資金の8分の7をまかなっていたのは、実は郵便貯金でした。国民が郵便局に預けたお金を財政投融資にして、それを戦争の費用に回していたわけです。
 今はどうか。実は、我々が銀行や郵便局に預けているお金の一部は、日本政府が発行する短期国債の大量購入に回されています。それによって得た資金で、政府が大量に購入しているのがアメリカの国債。さらにアメリカは、それによって莫大な資金を得て、戦争をすることができている——というわけです。イラク戦争なんかは、本当に日本のおかげでやれたようなものなんですよ。

──知らないうちに、私たちのお金が戦争に使われていた——と。

田中 もちろんそのほかに、銀行は企業へも融資を行いますが、その融資先にもいろいろと問題がある。たとえば三菱東京UFJ銀行は、クラスター爆弾(※)なんかをどんどんつくっているアメリカの軍事企業に融資していることがわかっています。こうしたお金の流れについては世界的にはすでに問題になっていて、「企業のCSR(社会的責任)として、軍需産業に融資するのはいかがなものか」という議論が始まっているので、日本でも多くの人がこの事実に気づいて、声をあげていけば変わるんじゃないかと思うのですが。
 さて、そう考えていくと、イラクの人たちの頭の上にミサイルを振らせたのは、まさに我々の貯金だといえます。そのお金があったからこそ、アメリカはわずか4年間で何万もの人を——今、65万5000人が死んだという説も出ているけれど——殺せたんだ、ということですね。

※クラスター爆弾:アフガニスタンやイラクなどの戦争でも大量に用いられた兵器の一つで、上空で爆発した一つの「親爆弾」の中からたくさんの「子爆弾」がばらまかれ、それらが地表で一斉に爆発するという仕組みになっている。爆弾そのものによる被害に加え、不発弾となる可能性が非常に高いため、戦闘行為が終了した後にも一般市民に被害を与えることから、「もうひとつの対人地雷」とも言われ、市民団体などから全面禁止を訴える声が上がっている。

──正直なところ、税金がどう使われているかを気にしたことはあっても、貯金が何に使われているのかまでは考えたことのない人が多いのではないかと思います。私自身、イラク戦争に反対、と言っていても、実は自分の預けたお金がその戦争に使われているなんて、想像もしたことがなかったですから。

田中 そう。みんな口で言っていることと、やっていることが逆なんですよね。口で「平和が大事」と言いながら、実は戦争に協力することをやってしまっているわけです。
 ここで重要なのは、口で言っただけのことは、何ひとつ実現しないんだということです。「平和が大事」「環境を守ろう」といくら言っても、実際には現実をつくるのはお金です。誰かの発言なんて、無視されればそれで終わりなんだから。現実を変えたいんだったら、まずお金の動きを変えなければ、望んでいるような現実は絶対に来ないですよ。

お金の流れを、自分たちの手に取り戻す

──その「お金の動きを変える」取り組みが、apバンクや未来バンクのようなNPOバンクなわけですね。預けたお金が戦争や環境破壊に使われないように自分たちで管理しよう、という。
 いわば、これまで戦争や軍事といった「負」の方向に流れ、使われていたお金を、違う方向へ向けて活かしていこうとしているわけで、画期的な取り組みだと思います。これまで、市民運動というのはお金が絡まない形でないとやっちゃいけないというような考え方も一部にあったと思いますし、その意味でも新しい運動形態のヒントになるのではないでしょうか。

田中 そうですね。実はNPOバンクには、もう一つ目指していることがあります。一つのバンクを大きくするのではなくて、各地域にそれぞれ小さいバンクができるほうが望ましい、と思っているんです。

──それはどうしてですか?

田中 銀行や郵便局に預けられたお金というのは、結局地方から東京へ全部吸い上げられることになるわけです。それがあとで「公共事業」という形で、使い道を限定されて地方に戻ってくる、という形になっている。最初から地域のお金は地域の中にとどめておけば、その地域の中で投資をして、それによって雇用も生まれ、経済効果も望めるわけです。よく、自然エネルギーについて「地域分散型」という言葉が使われるけど、お金こそ地域分散するべきなんです。
 だからぼくらのバンク一つが大きくなるのではなく、各地域にNPOバンクを作ってほしいと思っているんです。今はまだ、全国で10くらいしかないんだけど、「つくろう」という動きはほとんどすべての都道府県で起こっています。

──それもまた、お金の流れを自分たちの手に取り戻そう、という動きと言えるかもしれませんね。
 それにしても、こんな話を聞いてしまったら、お金を銀行にも郵便局にも預けたくない、じゃあどうしたらいいんだろう、と途方に暮れる方が読者の中にもいるんじゃないかな、と思うのですが(笑)、そのあたりのアドバイスもいただけますか。やっぱりNPOバンクですか?

田中 うーん。ただ、NPOバンクは貯金ではなくて出資なので、元本保障がなくてリスクがあるんですよね。金利はつかないし、得することは絶対にないけど損することはあり得るので、誰にでもおすすめできるというわけではないと思います。
 比較的マシな金融機関は労働金庫でしょう。企業などへの営利の融資が禁止されていて、預金の7割は組合員の家のローンなんかに回されているので、悪いところには流れにくい。ただ、ほかにもやり方はいろいろあるんですよ。
 たとえばぼくは今、ユーロ建てでドイツ国債を買っています。ドイツはぼくの目から見ると非常にいい政策をとっている国なんです。シュレーダー元首相が、「エネルギーを自然エネルギーに替えていくことが本当のエネルギーセキュリティだ」なんて演説をしていたりして。そのドイツの国債をたくさんの人が買えば、金利が下がるからドイツは楽に資金を調達できるようになって、結果的にドイツの政策を支えることにつながるわけです。

──なるほど。そうやって自分が「いいな」と思う政策への支持を表すという方法もあるわけですね。

田中 政府だけではなくて、いい取り組みをやっている地方自治体の地方債や、企業の株を買って支援するという方法もあるし。やり方はいっぱいありますよ。

戦争に反対しない環境保護運動は、自己満足でしかない

──さて、apバンクや未来バンクは主に、「環境にやさしい」事業や取り組みに融資をしているわけですが、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』『地球温暖化 人類滅亡のシナリオは回避できるか』など、ここ最近の田中さんの著作を拝見していて印象的だったのが、「戦争」と「環境問題」とのつながりに着目し、「環境を守るなら戦争にも反対すべきだ」と主張されていることです。
 私たちが地球温暖化を少しでも止めようと、省エネなどに取り組んでいるその同じ瞬間に、戦場では戦車や戦闘機が石油を消費し、莫大なCO2(二酸化炭素)を発生させて私たちの努力を無駄にしている——という説明のくだりは、たしかにそうだなと気づかされました。いくら地球温暖化防止の運動をしても、戦争を止めない限りは結局CO2によって人は滅びてしまうことになる、ということですね。
 しかし、田中さんも指摘されているように、「戦争」と「環境問題」という二つの問題をリンクして考えよう、という発想は、これまでほとんどなかったと言っていいと思います。田中さんご自身も、以前はどちらかというと反ダムや反原発など、環境問題について活動されることが多かったかと思うのですが、それと「戦争」とを直接的に結びつけて考えられるようになったのには、何かきっかけがおありだったのですか?

田中 もともと興味がなかったわけではないですが、やはり9・11の同時多発テロ事件の影響が大きいですね。あの事件のあと、音楽家の坂本龍一さんたちとメーリングリストをつくって、意見や情報の交換をしていたんです(※)。そこで飛び交っていた莫大な情報を毎日必死に読んでいたことがバックボーンになりました。米国の軍需産業と政府の結びつきについてとか、エネルギー問題と戦争とのつながりとか、いろいろな情報を読むうちに興味が出てきたんですね。
 それと、もともと「人間を大事にしない環境保護運動」に、すごく違和感があったというのもあると思います。

※メーリングリストでの意見交換:この内容は、のちに『非戦』(幻冬舎)という本にまとめられた。

──といいますと?

田中 たとえば以前、屋久島へ行ったときに、ある大学がやっている屋久島再開発モデルを見る機会があったんです。そうしたら、ここは自然保護エリアでここは居住エリアでと、すでにそこに住んでいる人を無視して勝手に決めていた。「ここは自然保護エリアだから君たち、どいてね」みたいな。そんな、「ふざけるな」ということを大学が平然と研究していることにショックを受けたんですね。
 あと、僕の友人で芦浜原発の反対運動をしていた人がいるんですが、彼がさかんに「ウミガメがなんぼのもんだ」と言っていたんですよ。みんな、この浜にはウミガメがいて大事だから原発をつくるなと言うけど、じゃあ俺たちはかわいそうじゃないのか、俺たちよりもウミガメが大事だっていうのか、と怒っていた。それはまったくそのとおりだと思ったし、人間主体でものごとが考えられていないな、と感じましたね。
 そして、それと同じような違和感があったのが、「戦争は最大の環境破壊だ」という言葉だったんです。

──その言葉自体はよく耳にしますが、「湾岸戦争で原油が海に流れ込んで海鳥が死んだ」とか、どちらかというと動物や自然景観への影響に対して言われることが多いような気がしますね。

田中 「チグリス・ユーフラテス川の湿地は野鳥の楽園だから、爆弾を落とすなんてとんでもない」とかね。じゃあ、それを越えたところの住宅地に落とすのならいいのか、ということです。
 環境保護を口にしながら戦争に反対しないというのは、それと同じように「人間主体で考えていない」ことだと思うんですね。以前、小池元環境大臣が自衛隊で一節ぶったことがあるんですよ。戦闘機や戦車にもハイブリッドを導入して、省エネをすべきだと。でも、それって考えてみればばかげた話で(笑)。兵器というのは、人を殺してなんぼ、という装置なんだから、CO2によってであれ何であれ、人をたくさん殺せるのであれば「いい兵器」のはずなんです。そこに公害を防止するという、「人を殺さない」ための仕組みを取り入れようというのは、根本的に矛盾しているし発想が逆。それなら、そもそも人を殺すための装置をつくらないとか使わないとかいうことのほうが先に来るべきでしょう。

──確かに、人を殺すための兵器に「地球にやさしい」装置を、というのは奇妙な論理ですね。本来、環境保護というのは私たち人間が生きていける環境を維持しよう、ということのはずなのに、「環境を守る」ことだけが一人歩きしている。

田中 そうして考えていくと、環境保護を訴えながら、一方で人を殺す「戦争」というものを認めるのはどうしたっておかしい。それは、「自分は努力したんだ」という、単なる自己満足でしかない。そう思うようになったんです。

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(たなか・ゆう)1957年生まれ。「未来バンク」理事長、「ap bank」顧問、「日本国際ボランティアセンター」理事、「揚水発電問題全国ネットワーク」共同代表、「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」理事を務めるなど、さまざまなNPO活動に関わる。著書に『地球温暖化 人類滅亡のシナリオは回避できるか』(扶桑社)、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(岩波ブックレット)、『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方 エコとピースのオルタナティブ』(合同出版)、『環境破壊のメカニズム 地球に暮らす地域の知恵』(北斗出版)など。※プロフィールは初出当時