第122回:“憲法審査会設置10年” 迷走が止まらない、安倍自民党の改憲論議(南部義典)

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憲法審査会の設置から10年

 いまから10年前、時に第一次安倍内閣でしたが、2007年7月29日に投開票が行われた参議院議員の通常選挙は、与党(自民、公明)が過半数割れを起こし、衆参の「ねじれ」をもたらす結果となりました。投開票日の9日後、2007年8月7日には、臨時国会(第167回)が召集されています。
 振り返れば、衆議院と参議院の憲法審査会は、その臨時国会の召集日に設置されています。早いもので、設置から10年が経過しました。
 もっとも、設置されたといっても、比喩的に言えば、組織としての看板が掛かっただけでした。憲法審査会の組織、運営の仕組みを定める内部ルールの整備が、衆参ともに遅れ、両院の足並みが揃うのに時間を要したためです。当然、委員の選任なども行われませんでした。憲法審査会が実際に始動したのは、時に政権交代後の野田内閣の下、2011年10月20日に召集された臨時国会(第179回)に入ってからのことです。憲法審査会は、形式上の設置から10年、実質的な活動を始めてから5年10か月ということになります。
 思えば、10年前の私の認識としては、国会がただちに改憲発議に至るような状況ではないものの、与野党の歩調が上手く合えば、10年くらい後には、何らかの発議が行われるかもしれない、といった程度でした。しかし、まさか憲法審査会自体が、4年2か月にも及ぶ「空白期間」を生むとは予想していませんでしたし、その後も現在まで、憲法改正案の原案を一度も審査しないとは、想像に及びませんでした。

数の力だけでは、「改憲」は進まない

 私自身、この10年間で改めて意を強くしたのは、「与党議員の数の力だけに頼っては、憲法改正の議論は進まない」ということです。国会が「ねじれ」を起こしていようがいまいが、政権交代・再交代の潮流がどうなっていようが、本質は変わりません。また、議論の中核を担う議員による、立憲主義に対する常識的な理解と、立憲政治の理性的な実践がなければ、議論のテーブルさえ整わない(憲法審査会が動かない)ということも広く明らかになり、ある種の政治法則と化したことも感じ取っています。
 自民党は2005年10月に「新憲法草案」を、2012年4月に「日本国憲法改正草案」を公表し、改憲政党としての面子、見栄えを保ってきましたが、一言でいえば国民に対して「改憲やるやる詐欺」を続けてきたにすぎません。与党第一党が「衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成」という改憲発議要件をクリアしようとすれば、与党第二党(パートナー)はもちろん、少なくとも野党第一党との丁寧な合意形成を果たすことが不可欠です。しかし、自民党は与党第一党として、合意に向けた真摯な努力を一度も傾けたことがありません。憲法改正の理念、目標に共感し、自民党を一生懸命応援している方々には申し訳ないのですが、改憲に絡む「新手の政治詐欺集団」であることに、いい加減気づくべきではないかと思います。

国民自ら「待った」をかけた、無謀な改憲論議

 現在、衆参ともに、改憲賛成勢力が「総議員の3分の2以上」を占めていて、野党第一党の賛同を得られなくても、改憲発議が可能な状態にあります(政治状況としては、特別な期間です)。そんな中、ことし5月3日には、安倍総理・総裁の口から「2020年憲法改正施行宣言」が高らかに唱えられました。そして、自民党憲法改正推進本部は、にわか仕立てで組織を強化し、秋に召集されるであろう臨時国会での改憲発議をめざし、4項目(自衛隊、緊急事態、教育無償化、参議院議員の都道府県代表性)の議論を急ピッチで進めてきました。しかし、6月以降の急激な支持率低下、都議会議員選挙での歴史的大敗を受けて、8月3日には安倍総理・総裁が「スケジュールにはこだわらない」と、5月3日の宣言を事実上、棚上げしました。
 この、わずか3か月間のドタバタ劇も当然、「改憲やるやる詐欺」と評価されますが、何より、野党第一党である民進党がストッパーとして十分な働きをしなくても、多くの国民が反対の声を上げ、拒絶反応を示すことで、無謀な改憲論議を止めることができることを実証し、成功させた意義は大きいと思います。3年前、集団的自衛権の限定容認等に関する憲法解釈変更(新安保法制の整備の基本方針に関する閣議決定)を抑え込むことはできませんでしたが、今回は国民の声で「改憲やるやる詐欺」を撃退することができたのです。「議員の数の力だけでは、改憲を進めることができない」厳然とした現実に、安倍総理・総裁はその状況を十分に把握していないとしても、自民党の執行部全体が直面し、後退りが始まっているのです。

党人事で明らかな、改憲論議のさらなる迷走

 もし、「2020年憲法改正施行宣言」を本気に実現しようとすれば、自民党としての方針を変更したり、人事配置を再考する態度に出るはずです。この意味で、自民党憲法改正推進本部の体制が今後どうなるか、私はとくに注視しています。人事を見れば、取組み方針の本気度が分かります。
 8月3日の内閣改造では、自民党憲法改正推進本部の事務局長を務めていた上川陽子衆院議員が法務大臣に任命されました。したがって現在、事務局長のポストが空白になっていますが、空白のままでは党の議論を前に進めることはできません。当然、次の事務局長は誰になるのだろうかという話になるのですが、私は、礒崎陽輔参院議員(現・農林水産副大臣)ではないかと予想していました。というのは、「日本国憲法改正草案」の作成のプロセスで、ずっと事務局長の任にあったことに加え、国民投票法の改正(2014年)、18歳選挙権法の整備(2015年)のさい、各党との調整に当たっていた経験があるためです。
 しかし、私の予想は見事に外れました(7日の副大臣人事で、礒崎議員は再任されました)。ある新聞社がすでに報じていますが、次の事務局長にも、新設される「事務総長」のポストにも、安倍総理・総裁の「大親友」が着任する予定とのことです。これでは、各党間の合意形成に向き合う本気度をうかがい知ることができません。自民党憲法改正推進本部は今後、他党との関係は視野に入らず、党内の意見集約に精一杯という感じになっていくでしょう。そうなればなるほど、現実は、国会の改憲発議(要件)から遠のいていくのです。

野党はもっと、憲法審査会の土俵に押しかけるべき

 話を憲法審査会に戻しますが、野党は、「改憲やるやる詐欺」が止まらない自民党を他所に置いて、設置11年目を迎える憲法審査会の土俵上に、もっと堂々と乗り込むべきだと考えます。憲法審査会は、憲法改正案の原案を審査することだけが所管ではありません。もっと広い意味で、憲法の解釈、運用を採り上げ、議論することができます。事実、2年前には、新安保法案「違憲論」を国民的世論へと展開させる原動力になりました(ことし、共謀罪法案で同様のことができなかったのは残念でした)。最近のトピックであれば、野党が憲法、国会法の規定、先例に従って適式に行っている臨時国会召集要求を安倍内閣が無視し、しかも、「召集要求から20日以内」という自民党憲法改正草案53条にも反しているという自己矛盾を、深く追及することができる場になります。また、森友、加計、陸自日報の三点セットは共通して、行政文書の作成、管理、保存、公開、さらに、国会に対する説明責任の尽くし方について、政府にはびこる深刻な隠ぺい体質をあぶり出し、国民の「知る権利」が蔑ろにされ続けている実態を白日のもとに晒しています。憲法とはおよそ、統治のルールのあり方を決めるものであることから、憲法審査会にこそ、こうした根本問題に腰を据えて取り組んでほしいと思います。
 ちなみに、フィンランド国会(一院制、通年制)には、憲法委員会(Constitutional Law Committee)という名称の常設機関があり、審議される法律案等の合憲性に関して、本会議に対して報告書を提出したり、他の委員会に声明を発出する権限が認められています。フィンランド国会事務局が公表した年次報告(2016)によると、憲法委員会は一年間で114回開催されており(日本の憲法審査会とは、桁違いです!)、3つの報告書、67の声明を発出しています。
 設置11年目を迎えた憲法審査会は今後、どんな組織、運営をめざしていくべきか、フィンランドの例は単純には比較できないものの、十分に示唆的です。日本でも、野党が声を大にして、制度・運用の工夫、改善に向けて、知恵を絞り、結実させてほしいと思います。自民党ばかりに気を取られていると、視野が狭くなるばかりです。

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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸