“Revolving Door”~LawyerからLawmakerを経てnext stageへ~ 講師: 椎名 毅 氏

AIにより弁護士の仕事が代替されるのではないか──。これから法曹を目指す人の中には、そんな漠然とした不安を抱いている人が少なくないかもしれません。しかし、弁護士で元衆議院議員の椎名毅先生は、AIは業務を効率化するに過ぎず、むしろ弁護士の持ち合わせているスキルは今後ますます幅広い分野で求められるだろうと言います。今回の講演では、これまで弁護士として実に多様な仕事をしてこられた椎名先生に、ご自身の経験を踏まえながら、弁護士のもつスキルの魅力や可能性などについてお話しいただきました。[2019年3月16日(土)@渋谷本校]

“Revolving Door”の意味

 本日のタイトルのRevolving Doorとは回転ドアのことを意味しますが、政治の世界においては、民間から政界・行政へ、あるいは政界・行政から民間へと、人々が民間と政・官の間を行ったり来たりすることをいいます。
 このRevolving Doorは、アメリカでは割と普通のことです。アメリカでは普通の民間人も政治における自分のポジションをはっきりと示すことが多く、例えば大統領がオバマ氏からトランプ氏へ交代をしたときには、官庁のスタッフも民主党系から共和党系へとごっそり入れ替わることになりました。これにより、政策の転換が図られることになります。
 しかし日本では、政権が変わっても各省庁の構成が変わることはありません。各省が政策立案をし、政治がそれをオーソライズするという構造は何も変わりません。官僚が日本の行く末を決める政策立案を独占しており、省庁以外に政策形成に携わる人が圧倒的に少ないのです。これはすなわち、代替案としての「Bプラン」が存在せず、政権交代によって政策の転換が行われることが難しいことを意味しています。
 日本における政策を巡るコミュニティの中で最も大きな特徴の一つは、この現実的な「代替案」が限られているということにあります。代替案がないと慣性が働き、どうしても同じ方向へと行き続け、転換を図ることが難しくなります。例えば原子力政策においてもそうです。もし仮に、現実的なBプランがあったならば、事故が起こる前に転換がなされたかもしれません。
 私は政策コミュニティにかかわる人間がもっと増えたらいいと思っています。また、私と同じように考えている人は、官庁をやめた人を中心に結構たくさんいて、政策提言をするためのシンクタンクを作っていたりします。そういう方々が同じように述べるのは、日本にもRevolving Doorが必要だということです。これからの時代、民間で政策提言をしていた人たちが一時的に官庁に入って、ダイレクトに民間の考え方を取り込みながら、政策立案をしていくことができればいいと思っています。

私が闘っているもの

 私自身のキャリア遍歴をお話しするより、何を目的として生きているか、みたいなものをお伝えした方が、より私の人となりを分かってもらえると思うのでお話しすると、私が闘っているのは「空気」です。実体のないものと闘っているので、たぶん一生勝てないのだろうとは思っていますけれども。
 私は同調圧力や空気が大嫌いです。個人が自立して、自らの意思決定において、自分のやりたいことをやって生きることが幸せの本質だと思っています。
 猪瀬直樹氏の『昭和16年夏の敗戦』という本には、総力戦研究所によるシミュレーションで開戦前から敗戦することが分かっていたにもかかわらず、日米開戦やむなしの「空気」から日本は開戦したという主旨のことが書かれています。当時の我が国政府は、同調圧力と空気により意思決定がゆがめられ、戦争を開始したのです。戦争というのは外交の一つの手段なので完全に否定はしませんが、国家の行く末を決める大事な意思決定が空気により行われた、ということには愕然とします。
 政治家というのは、常に勇気をもって自らが正しいと信じることを発言し、時に空気に抗い、自らが信じることを実行していく、そういう厳しい仕事だと思っています。

弁護士の持ち合わせるスキルセットの有用性

 弁護士というのは、自分の気持ち次第で非常に多様な働き方ができる職種です。弁護士のもつスキルは社会的にとても意味のあるものだと思っています。
 例えば、事実と評価を分けて思考するスキル。これは法律家なら誰でも当然に持ち合わせているものですが、実は非常に重要です。世の中の言論のすべてはポジショントークであり、その多くは、事実を提示しているだけと見せておきながら、発言者の何らかの評価なり意見が混在しています。テレビなどでは、コメンテーターが単に自分の意見を述べているだけということも多く、思わず「事実は何ですか?」という突っ込みを入れたくなるほどです。テレビにしろ新聞にしろ、事実と評価を分けて思考するマスメディア人がもっと増えてほしいと切実に感じます。この点は弁護士が入る余地のあるところです。
 また、法律家の最大の仕事は事実認定です。裁判とは、目の前にある証拠から要件事実を導きだせるかを分析・検討し、事実を認定していく作業の繰り返しです。この証拠収集及び事実認定するスキルや、事実同士の関係性を把握し分析的に思考する能力も様々な場面に応用できます。
 今後、AIの台頭により弁護士の仕事はより効率的になるでしょうし、必ずしも弁護士がする必要のない作業もたくさん出てくるとは思いますが、弁護士が日常的に行っている事実と評価を分けるとか、体系的な思考をするとか、証拠を分析し事実認定をするとか、事実同士を関係付けるとかの作業はAIにはできません。AIにできるのはマスデータからの傾向性をつかむことであって、考える能力を持ち合わせているのはやはり人間です。弁護士の仕事の一部がAIに置き換えられて効率化することはあっても、人間がやるべき部分がなくなることは決してないでしょう。

弁護士のスキルを活かして 〜国会事故調で

 2011年の福島第一原発事故の後、結局何が問題だったのか、どこに原因があったのかなどを明らかにすべく、外部の有識者を集めて国会内に東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、いわゆる国会事故調がつくられました。それまで、行政府には外部有識者を招いた審議会のような会議体はあったものの、立法府に外部の人間が入った会議体を設けるということは憲政史上一度もなかったので、仕組みを作ること自体がチャレンジでしたが、私を含め国会の職員として雇われたメンバーでそれぞれチームを作り、法律に基づき6ヶ月間で報告書を書き上げました。
 そこでの作業を端的にいうと、関係者各位のヒアリング、資料の読み込みなどを通して様々な証拠を集めて、事実認定をすることでした。行政関係者や学者、医者、事故対応作業員、東電の職員などあらゆる立場の人々に話を聞きましたし、現地視察として福島第一原発、第二原発、チェルノブイリにも足を運びました。私は、そのうち被害拡大の原因について調査しました。一つひとつの証拠から事実を認定し、事実と事実の間に因果関係があるのかを検討し、文書にまとめる。まさに、典型的な法律家の仕事だったと思います。

弁護士のスキルを活かして 〜Lawmakerとして

 2012年からは2年間、衆議院議員として活動しました。国会議員を表す英単語は様々ありますが、私自身は法律家として政治に携わりたいという思いが強かったので「Lawmaker」になりたいと考えて議員活動を行っていました。
 国会議員が法案に対して質疑をする作業は、立法事実の有無を検討したうえで、各条文が立法事実に対応する施策として、漏れなく余りなくちゃんと満たしているかどうかを丹念に調べ、問題点を指摘したり、代替案を提示したりする作業です。ここで法律家としてのスキルが活きてきます。
 法律はひとたびできると一人歩きしてしまうので、内容には細心の注意を払う必要があります。法案作成の段階では、官僚が作成し、各種関係団体などから様々な意見要望などの事前チェックが入りますが、そもそも政策立案の前段階で民間経験者の視点で起案されると、よりよい政策ができるのではないかと思います。
 そもそも、憲法とは、基本的に国家の統治機構を規定する法です。是非みなさんには、政治や行政を見るときに、憲法上の権力行使が行われているという視点からチェックしてほしいです。政治家には、自らの立場や持ち合わせた権力を理解せず、無邪気に振舞う人たちもおりますが、本来権力は謙抑的に行使されるべきものであって、政治家個人は自覚をもって活動しなければいけないと思います。

現在、そしてこれから

 2017年に、JCICというサイバーセキュリティー専門のシンクタンクを立ち上げました。シンクタンクとは公共政策の策定に資することを目的とした研究を行う組織のことです。JCICは既にいくつかのレポートを出していますが、現在は、基本的に大企業の取締役会でサイバーセキュリティリスクを議論されるような仕組みづくりを検討しています。
 日本では、金銭的に自立し、独立性が高いシンクタンクは非常に少ないです。基本的に政策提言というのはお金にならないので、わが国ではなかなか独立性の高いシンクタンクが育たないのです。
 他方、日本以外を見てみると、優秀なスタッフを多数抱え、素晴らしい政策提言を行っているシンクタンクがたくさんあります。それは寄付があるからです。多額の寄付によって、シンクタンクが潤沢な資金を持っているから、多くの優秀なスタッフを抱えることができるのです。
 アメリカでは最初に触れたように、大統領が交代をすると官庁のスタッフが大量に入れ替わるので、それまで政府の役職にあった人が民間のシンクタンクや大学などへと移って、政策提言や研究を行うことになります。これにより政策形成コミュニティの分厚さが形成されます。これが次に起きる大統領の交代の時のブレーンとして機能するのであり、民間シンクタンクや大学が大統領交代時の政策転換を担保する装置として機能しています。
 このようなシンクタンクを日本でも充実させていき、政権交代による政策転換が図られるようになることが望ましいと考えます。現時点においては政策立案を各省庁が独占していますが、民間において現実的な代替案を提言できる人がもっと育たないといけません。もし仮に、野党が自分たちの理想に従いつつも、現実的に実現可能性の高い政策を提示できれば、政権を任せたいと思う人が増えるかもしれないのです。
 既存の社会制度と現実を見比べながら、どこに課題があって、どのように課題解決を実現していくかを考えていく。ここでも法律家のスキルが非常に有用だと思っています。これはAIにはできません。
 私自身は、このように公と民を行ったり来たりしながら、社会に貢献したいと考えています。あらためて自分がどういうふうに生き、どんなことをしたいかを考え直したときに、政治ではなくてもできること、民間でもできることはたくさんあることに気付きました。
 全ての人が笑顔で暮らせる社会を創るための礎として、自分にできること、自分にしかできないことを公・民問わずやっていきたいと思っています。

椎名 毅 氏(弁護士、元衆議院議員、元伊藤塾塾生)
1999年司法試験合格。2000年東京大学法学部卒業。法律事務所勤務を経て、2009年~2011年London School of Economics and Political Science(LSE)留学、2010年~2011年、デュアルディグリープログラムにてLSEからColumbia University, School of International and Public Affairsへ再留学、双方から公共経営学修士。帰国後に経営コンサルティング会社に勤務し、2012年衆議院参与へ転籍出向、国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(いわゆる国会事故調)勤務。2012年〜2014年衆議院議員として法務委員会、経済産業委員会、原子力問題調査特別委員会などに所属。2015年1月から椎名つよし法律税務事務所代表弁護士。2017年1月~2018年8月まで株式会社PhoneAppli社外取締役。2017年5月から株式会社メディアドゥ(現株式会社メディアドゥホールディングス)監査役。2017年11月から一般社団法人日本サイバーセキュリティ・イノベーション委員会(JCIC)監事。